療育に関わる専門職【後編】(1)

皆さんは、「療育」という言葉を知っていますか?療育とは、障害のある子どもが将来社会的に自立し、より良い生活を送れるように発達を支援することです。心身障害児総合医療療育センターは、療育の理念を提唱した故高木憲次博士ゆかりの施設です。今回は前号に引き続き、このセンターで、歩くことが難しい子どもとその親を対象にした生活指導などを行う親子入園を担当されているチームの方々にお話を伺いました。

声をかけやすい関係を築く

先生

――多角的な視点から親子を支援するためには、多職種間の綿密な連携が必要ですよね。

田中伸(S*1):はい。特にリハビリ系スタッフは、普段は親子と個別で関わることが多いので、どうしても自分の専門分野にとらわれて考えが偏りがちになります。やはり他職種から様々な情報を得る機会は重要です。

亀山(保育士):私も親子と関わる際は、「この子はこういう子、この親御さんはこういう方」と決めつけないように心がけています。他職種に訓練の時の様子を聴くなどして、広い視野を保てるようにしています。

伊藤(看護師):退園後を見据えて各機関との調整をする際にも、このチームは非常に頼りになります。退園後に地域に帰ると、小児のリハビリをしっかりみてくれる施設はなかなか多くありません。入園中は、集中的なリハビリや支援を受け、手ごたえを感じる親御さんが多いのですが、その分退園後への不安も募りがちなのです。でもここのスタッフは、「できないのだから仕方ない」で終わらせず、「こういう方法ならニーズに合うかもしれない」などと前向きな助言をくれます。それがきっかけで地域との調整が進むことも多く、ありがたく感じます。

――多職種間でどのように連携をとっているのですか?

山口(医師):毎週金曜の夕方、各部門からスタッフが集まり、全ケースの情報交換をするカンファレンスを開いています。個々のケースについては、入園から4週間後に担当者が集まり検討します。その他、何かあれば電話やメールで適宜連絡しています。病棟看護師やSW*2がハブとなることが多いですね。

鳥飼(看護師):職種間の連絡調整のほか、「訓練中に訊きそびれてしまった」「訓練後にこんなことに気付いた」などの親御さんからの言付けを、各部署に連絡したりもしています。

徳井(心理士):誰かが看護師に何か報告すると、それが速やかにチーム全員で共有されるようになっているのです。医療的な課題だけでなく、細かなスケジュール変更などもきちんと全員に伝わっているので、スムーズに連携できます。

田中慎(O*3):リハビリ系スタッフ間では、特にPT*4とOTはスタッフルームを共有してフリーデスクで仕事をしているので、密な情報交換ができます。

竹本(P:病棟にも1日1回は行く機会があり、医師や病棟看護師とはそこで情報共有や確認をしています。そのほか、気になることがあればすぐに病棟に連絡するようにしています。ナースステーションに行けば、常に誰かしらスタッフがいて、雑談も交えながら情報交換できるので、自然と連携をとりやすい雰囲気がありますね。



*1 ST…言語聴覚士(Speech・Language-Hearing Therapist)
*2 SW…ソーシャルワーカー(Social Worker)
*3 OT…作業療法士(Occupational Therapist)
*4 PT…理学療法士(Physical Therapist)

 

療育に関わる専門職【後編】(2)

信頼関係と尊敬が連携の要

――そのような垣根のない関係を築くために、何か工夫していることはありますか?

山口:医師は他職種から「話しかけにくい」と思われがちですから、できるだけ話しかけやすい雰囲気をつくることを心がけていますね。急性期の医療機関などでは、医師一人が頑張れば、何とか結果を出せる面もあると思います。しかしこの施設では、多職種みんなに頑張ってもらうことこそが重要なんです。

竹本:何かあればすぐ医師に連絡するという文化が根付いているのですが、それはやはり先生方が常に笑顔でいてくださり、気軽に話しかけられることが大きいと思います。

徳井:障害のあるお子さんに関わる場合、手術を受けて治り、「先生ありがとう」と言って帰っていく子ばかりではなく、長くお付き合いしていくケースも多いのです。医師の仕事も、利用者が医療サービスや福祉サービスを受けるための書類作成や手続き、退園後の通院先との面談など多岐にわたり、傍で見ていても大変だなと感じます。でも当施設の先生方は皆、お子さんの人生、そしてそれを支える家族の人生をより良くしようと喜んで尽力されていて、非常に尊敬しています。

佐々木(SW):皆がそれぞれに意見を持っているので、職種間を調整する際は、正直少し苛々してしまうこともあります(笑)。でもそれは、各々の専門性に基づいて、「何が患者さんにとって一番良いか」を真剣に考えているから。そう思ってすぐに気持ちを切り替えられるのは、やはり他職種への尊敬と信頼関係が根底にあるからだと思います。

子どもと家族の笑顔を支える

――このチームが一番大事にしていることは何ですか?

須山(看護師):当施設に入園してこられる方は、誰しも様々な不安や悩みを抱えています。ですから最も重視しているのは、利用者の方が、親子入園の8週間のプログラムを安心・安全に過ごせる環境づくりですね。何か一つでも悩みや不安を解消し、満足して帰っていただくことが、病棟スタッフが一丸となって目指していることです。

山口:小児科医としても、多職種で協力し合って、子どもや家族が笑顔で暮らせる手助けができるこの仕事は素晴らしいものだと日々実感しています。

ただ、子どもはいつしか大人になり、家族のライフステージも進み、私たちがお手伝いできる時期はやがて終わります。私たちは、「入園してもらい、無事に地域に帰っていただく」というだけでなく、もっと長期的な視点に立って関わっていく必要があるでしょう。障害のある子どもと家族のライフステージのモデルをつくり、次のステージへと進んでもらう。そんな支援に、チームで取り組んでいけたらと思っています。

 

写真前列左から、伊藤正恵さん(医療連携担当看護師)、鳥飼美那さん(看護師)、亀山布由子さん(保育士)、徳井千里さん(臨床心理科長)、佐々木さつきさん(福祉相談科係長)、須山薫さん(看護係長)

写真後列左から、山口直人さん(小児科医・リハビリテーション科医長)、田中伸二さん(言語聴覚科長)、竹本聡さん(理学療法科主任)、田中慎吾さん(作業療法科主任)

 

 

No.32