グローバルに活躍する若手医師たち(前編)

日本医師会の若手医師支援

JMA-JDNとは

Junior Doctors Network(JDN)は、2011年4月の世界医師会(WMA)理事会で若手医師の国際的組織として承認されました。JDNは、世界中の若手医師が情報や経験を共有し、未来の医療を考えて行動するための画期的なプラットフォームです。日本医師会(JMA)は2012年10月に国際保健検討委員会の下にJMA-JDNを立ち上げました。これまで若手医師の集まりは学会や医局、地域、NGOなどの枠組みの中でつくられてきました。JMA-JDNは、多様な若手医師がそれらの枠組みを超えて、公衆衛生や医療分野において自由に自分たちのアイデアを議論し行動できる場を提供したいと考えています。関心のある方は検索サイトやFacebookで「JMA-JDN」と検索してみてください。

今回は、JMA-JDNの若手医師より、Universal Health Coverageについて、アジア大洋州医師会連合総会、世界医師会総会・JDNミーティングの報告を寄せてもらいました。

 

Universal Health Coverage Dayを通して
医療制度の歴史を学ぶ

東京大学大学院 医学系研究科公衆衛生学 JMA-JDN元代表 阿部 計大

持続可能な開発目標(Sustainable Development Goals)では、2030年までにUniversal Health Coverage(UHC)の達成を掲げています。UHCは「すべての人々に、健康増進、予防、治療、リハビリテーション、緩和ケアに関する、質が高く、効果的な保健医療サービスへのアクセスを保証し、かつそれらを利用したことによって経済的困難に陥ることがないことを保証すること」と定義されます。これまで国際保健の目標は、多くが結核やHIVへの対策など、特定の疾患を念頭においたものでした。

しかし、各国が持続可能で、質の担保された医療提供体制を築かなければ、疾病対策も効果的に行えません。医療提供体制の構築のためには、人が健康であることは基本的権利の一つである(Health for All)という理解を様々なステークホルダーが共有する必要があります。UHCの概念はその理解を促進しています。多くの国がUHCの実現のために困難に直面しています。

日本は戦後の1961年に国民皆保険を達成し、質の担保された医療提供体制を充実させてきました。結果的に近年は世界トップレベルの長寿国となり、乳児死亡率の低さも目を見張ります。日本の先人たちは、UHCの実現のためにどのような困難に直面し、どのように乗り越えたのでしょうか。それらを調べて発信するために、JMA-JDNの有志はUHC Youth Networkの活動に参画しています。

2019年12月12日のUHC Dayでは、世界銀行と世界保健機関がつくるUHC2030より競争的資金を獲得し、日本のUHCの実現に深く関与されている政治家や行政官、学者、医療従事者、市民社会組織構成員の方々にご経験を語っていただきました。それらを撮影、翻訳して世界に配信しました。活動を通して、私たちは日本の医療制度の歴史を深く学ぶことができました。これらのスピーチ動画は多くの方に示唆を与えるものと信じています。

 

 

阿部 計大
手稲渓仁会病院で研修し、家庭医療専門医取得。東京大学大学院医学系研究科公衆衛生学で博士課程を修了し、研究を続けている。

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作成した動画は、UHC Youth NetworkのYouTubeチャンネルでご覧いただけます。

※先生方の所属は、寄稿当時のものです。

 

グローバルに活躍する若手医師たち(後編)

アジア大洋州医師会連合(CMAAO)総会に参加して

東京都立広尾病院 救命救急センター専攻医 JMA-JDN副代表(外務) 石畠 彩華

年に一度、アジア大洋州の国の医師会が集まり開催されるアジア大洋州医師会連合(CMAAO)総会が、2019年9月5日から7日にかけてインドのゴアにて開催されました。今年の総会のテーマは“The Path to Wellness”でした。Wellnessとは、身体、社会、環境、精神、経済、宗教、行動、知性など、ヒトを取り巻くあらゆる面において健康が満たされた状態として1961年に米国のハルバート・ダン医師により提唱された概念であり、Healthと比較し、より広く高次の欲求を満たした状態を意味する言葉です。Wellnessは地域社会における価値観が大きく影響するため一様に数値化するのが難しく、これらをより良くするには国家や地域におけるガバナンスの役割が非常に重要である、という前提に基づいて総会中は様々な発表と報告がなされました。

主催であるインド医師会長のSantanu Sen先生は、2019年6月10日にコルカタでインド人医師が患者家族に暴行され殺害された事件を受け、暴力から医療従事者を守るための早急な施策が必要な状況であることを明らかにされ、「医の倫理」の確立の重要性に言及されました。各国の医療課題や医師会の取り組みが報告されるCountry Reportでは、バングラデシュの難民医療の問題やネパールの多民族国家であるが故の課題など、各国に特徴的な報告がある一方、医の倫理や医学教育に関する万国共通の医療課題も多数取り上げられており、私自身、日々の臨床業務を顧みる大変良い機会となりました。

今回のCMAAO総会にはインドと日本の2か国から5名の若手医師が参加しました。海外の若手医師たちと交流する際には、各国国内の医療課題解決のために取り組む行動力とその強い意志にいつも驚かされます。CMAAOでは若手医師を主体とした活動を支援する機運が高まっており、今後益々若手医師の活躍が期待されます。

 

石畠 彩華
2017年札幌医科大学医学部卒。国家公務員共済組合連合会斗南病院にて臨床研修に従事。2019年4月より東京都立広尾病院で救急科後期研修を開始。

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国際会議では、その場でしか感じられない、得られないこともたくさんあります。機会がありましたらぜひ挑戦してみてください。

 

世界医師会総会・JDNミーティング in ジョージアに参加して

ブランデンブルク心臓病センター JMA-JDN 役員(国際) 岡本 真希

2019年10月23日から26日にジョージアにて開催された世界医師会トビリシ総会及びそれに先立ち21日から22日に行われたJDN meetingに、JMA-JDNから副代表の石畠と国際担当の岡本が参加いたしました。

今回のJDN meetingのメインテーマはGender Equity (男女平等)でした。アメリカ医師会長のHarris先生、ケニア医師会長のKitulu先生(いずれも女性)をゲストとしてお招きし、医療分野における女性のリーダーシップに関してお話を伺いました。

Harris先生からは女性医師を取り巻く課題、例えば給料格差(男性医師に比べ女性医師の給料は36%も低い)やリーダーシップの獲得機会不足など、またKitulu先生からは、女性が専門的な仕事を続けていくうえでの様々な障壁(専門医プログラムに進む女性医師はケニアではわずか30%)などをお話しいただきました。

印象に残ったのは、お二方が女性のリーダーとして声をあげ、情熱的に活動することで、医療分野における女性の参画及び活躍が不可欠であることを実際に示しているだけでなく、既に上記の課題点に対し、意図的な女性の管理職への起用などの政策面からのアプローチ、子育て支援などの環境面からのアプローチなど、様々な具体的な改善策に取り組まれていることでした。

フランスや韓国の若手医師からも、職場でのハラスメント、妊娠出産に伴うキャリアの中断・遅延など、女性医師を取り巻く環境は決して容易ではないことの報告があり、個々の医師が声をあげることの難しさを感じました。

今日医学部を卒業する学生は世界的にみて女性の割合が上昇傾向であり、だからこそ社会全体として女性の活躍を促進し、男女ともに協力しつつより良い医療を目指していくことが大切であると感じました。

 

岡本 真希
洛和会音羽病院にて臨床研修修了。現在、ドイツ・ブランデンブルク心臓病センター循環器内科に勤務中。

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現在勤務先の病院に医学生が臨床実習に来ています。学生時代を思い出します。

 

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※先生方の所属は、寄稿当時のものです。

 

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