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平成28年(2016年)6月20日(月) / 「日医君」だより / プレスリリース / 日医ニュース

新たな専門医の仕組みに懸念を表明し日本専門医機構及び基本診療領域を担う学会に6項目の実施を求める

 横倉義武会長は6月7日、堺常雄日本病院会長、西澤寛俊全日本病院協会長、山崎學日本精神科病院協会長、加納繁照日本医療法人協会長と共に、日医会館で緊急記者会見を行い、新たな専門医の仕組みに対する懸念を改めて表明。その上で、日本専門医機構及び基本診療領域を担う学会に対して、6つの事項(別掲)の実施を要望した。

 新たな専門医の仕組みについては、平成25年4月に取りまとめられた「専門医の在り方に関する検討会報告書」に基づき、日本専門医機構において準備が進められてきたが、制度設計の概要が公となった一昨年以来、医療現場からは新たな仕組みに対する不安の声が強まっていた。
 これらの声を受けて、横倉会長は2月17日に記者会見を行い、「新たな専門医の仕組みについては導入時期を平成29年から延長することも視野に入れ、まずは地域の連携の状況を把握し、地域における研修体制の整備を優先し、地域医療への影響を極力少なくした上で専門医研修を始めること」を要求(別記事参照)。翌18日に開催された社会保障審議会医療部会においても、中川俊男副会長が同様の趣旨を説明した結果、同部会の下に「専門医養成の在り方に関する専門委員会」が設けられ、議論が行われることになった(日医からは、今村聡副会長、羽鳥裕常任理事が参画)。
 当日の記者会見で、横倉会長は、「地域医療提供体制と日本専門医機構が提案している仕組みとの間に齟齬(そご)が生じているのではないかなど、本源的指摘がその後も相次いで寄せられ、各地域の不安の声はますます大きくなっている」と強調。「このまま拙速に新たな専門医の仕組みを導入してしまえば、指導医を含む医師及び研修医が都市部の大学病院等大規模な急性期医療機関に集中し、地域偏在が更に拡大する懸念が強く、現状でも医師の確保が困難な地域が多いことから、地域医療の現場に大きな混乱をもたらすことが危惧される」とした。
 更に、同会長は、①新たな専門医の仕組みにおけるプログラム作成や地域医療に配慮した病院群の設定等を行うに当たっては、それぞれの地域において都道府県、医師会、大学、病院団体等の関係者が十分に協議、連携した上で了解することが不可欠であるが、現状においては、それがいまだ十分ではない②地域医療への影響を考えれば、日本専門医機構の意思決定のプロセスは、透明性、中立性、社会的説明責任を欠いている―ことなどを指摘。
 「多くの関係者が本制度への強い懸念を持ったまま、拙速に導入することによる医療現場の混乱で、最終的に不利益を受けるのは患者さんであり国民である」とした上で、「まずは、地域の取り組みを先行すべきであり、新たな専門医の仕組みの導入を、平成29年度から拙速に行うのではなく、地域医療を崩壊させることのないように十分配慮した上で、専門医研修を始めるよう求めたい」とし、日本専門医機構及び基本診療領域を担う学会に対して、「地域医療、公衆衛生、地方自治更には患者・国民の代表による幅広い視点も大幅に加えて早急に検討する場を設け、その検討結果を尊重すること」「日本専門医機構の日常的な運営の在り方も含め、抜本的に見直すこと」など、別掲の六つの事項の実施を要望した。

各病院団体からも懸念の声が相次ぐ

 引き続き意見を述べた四つの団体の各会長からも、同様の懸念が示された。
 堺日病会長は、「専門医の議論と相まって、医師の偏在の問題など医療提供体制の議論が活発化しており、そういう意味でも専門医の問題は複合的な課題になってきている」と指摘。今回の要望の取りまとめに関しては、「医療を提供する者が医師の教育のあり方についても責任があると考えており、大変意義がある」と述べた。
 西澤全日病会長は、「地方の病院、特に中小病院から多くの懸念が寄せられており、このままでは地域医療の崩壊は更に進んでしまう。もう一度、地域医療を守る方向にプログラムの見直しを行って欲しい」と訴えた。
 山崎日精協会長は、「やり方を慎重にしなければ、臨床研修によって壊れてしまった地域医療を更に壊してしまうことになる」と現状を危惧するとともに、「現在の日本専門医機構の幹部は少し焦り過ぎている」とし、慎重な対応を求めた。
 加納医法協会長は、「専門医の質を良くすることには誰も反対はしていないと思うが、このままでは地方ばかりでなく、大都市においても医師の偏在が更に拡大しかねない」と強調。その上で、「ここは一度立ち止まって、プログラム等の見直しを行うべきだ」と述べた。
 その後の記者との質疑の中で、横倉会長は既に専門医の資格を持っている医師からは、今回作成された更新プログラムが日常診療に影響を与えるようなものになっていることへの懸念が多く聞かれていることも紹介。「そういったプログラムは見直してもらわなければならない」と述べた上で、「精査し、問題がないところは平成29年4月から開始することも可能だろう」とした。
 また、プログラムに問題があるか否かの最終的な判断は、日本専門医機構が行うべきとし、「その際には、地域医療を守る立場から日医として意見を主張していく」と述べた。

日本専門医機構及び基本診療領域を担う学会に対する要望事項

  1. 患者や国民に不利益を及ぼすような急激な医療提供体制の変更をしないこと。地域医療の崩壊を防ぐことを最優先し、ここは一度立ち止まり、専門医を目指す医師の意見を聞くとともに、地域医療、公衆衛生、地方自治、更には患者・国民の代表による幅広い視点も大幅に加えて早急に検討する場を設け、その検討結果を尊重すること。その際、いわゆるプロフェッショナルオートノミー(専門家による自律性)は尊重されるべきである。
  2. 検討の場において、現在各診療領域で定められているプログラム整備基準、特に指導医を含む医師及び研修医の偏在の深刻化が起こらないかどうか集中的な精査を早急に行い、その結果、地域医療の観点から懸念が残るとされた診療領域のプログラムは平成29年度からの開始を延期し、現行の学会専門医の仕組みを維持すること。
  3. 新たな専門医の仕組みにおけるプログラム作成や地域医療に配慮した病院群の設定等を行うに当たっては、それぞれの地域において都道府県、医師会、大学、病院団体等の関係者が協議、連携し、都道府県の協議会において了解を得ること。
  4. 日本専門医機構のガバナンスシステム等、組織の在り方については、医療を受ける患者の視点に立って専門医の仕組みの再構築を目指すという原点に立ち返り、医師の地域的偏在の解消に向けて寄与するなど地域医療に十分配慮すべきであり、そのためにも、地域医療を担う医療関係者や医療を受ける患者の意見が十分に反映され、議論の透明性や説明責任が確保されるようなガバナンス構造とする等、日常的な運営の在り方を含め、抜本的に見直すこと。
  5. 全ての医師が専門医を取得するものではなく、女性医師を始めとした医師の多様な働き方に十分配慮した仕組みとすること。また、既に地域医療で活躍している医師が、専門医の取得、更新を行うに当たり、医師の診療体制や地域医療に悪影響が出るような過度な負担を掛けないこと。
  6. 総合診療専門医、サブスペシャルティの議論はそれぞれ時間を掛けてしっかりと行うこと。

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