全ての医師が働き続けられる仕組みを作る
~日本医師会副会長 松原 謙二先生~(前編)

女性医師が増えている昨今、出産・育児などを経ても、男女がともに働きやすい環境を維持していくことは、医療業界にとって非常に重要なことです。ドクタラーゼでもこれまで、女性医師支援・男女共同参画の様々な取り組みを紹介してきました。今回は、女性医師のみならず全ての医師が働き続けられる仕組み作りについて、日本医師会副会長の松原謙二先生にお話を伺いました。

松原先生語り手:
松原 謙二先生 副会長
女性医師支援センター長(2014年6月28日まで)

女性医師支援の取り組み

取り組み

――日本医師会では、女性医師支援・男女共同参画の課題解決に取り組んでいますが、具体的にはどのようなことを行っているのでしょうか。

松原(以下、松):まず、国から委託を受けて行っている女性医師支援センター事業では、各都道府県医師会と共同で「医学生・研修医等をサポートする会」を開催し、女子医学生や研修医の方々がキャリアを考えたり、先輩医師と交流して働き続けるイメージを持つための機会を設けています。また「女性医師バンク」を設置し、広い人脈を持つ経験豊富な医師がコーディネーターとなって、職場を探している女性医師にキャリアを紹介しています。民間にも医師紹介のサービスはあるようですが、先輩女性医師がコーディネーターとなって、同じ医師の立場で勤務環境について考え、紹介できるサービスということで、利用された先生にも好評です。

他にも、日本医師会では女性医師が活躍できるよう様々な施策を行っています(表)。

勤務医が忙しすぎる

松:女性医師支援センター事業で行っているような直接的な施策も重要ですが、出産・育児と仕事の両立や、ワークライフバランスの確保がまだまだ難しいという問題の根本には、「医師が忙しすぎる」という問題があると考えています。ドクタラーゼ9号の特集「医師の勤務環境」でも触れたように、現状では勤務医の勤務環境が非常に過酷であると言わざるを得ません。医師の数に限りがある以上、勤務医が疲弊しないよう環境を整えていかなければなりません。これからは、女性ということにこだわらず、男性医師を含めた全ての医師が働き続けられる環境を作っていかなければならないと感じています。

――勤務医が忙しすぎるという問題には、どのような背景があるのでしょうか。

松:様々な要因はあるでしょうが、「国民が医師に求めるもの」が実情に合っていないという指摘は重要だと思います。日本の医療は、医師の献身的な働きによって支えられてきました。国民皆保険制度のもとで、安価で質の高い医療を、どこにいても受けられる体制が築かれている国は、世界でも日本くらいです。しかし、患者さんがいくら医師に献身的になってほしいと言っても、医師が休みを取れない状態が続けば、医療を提供する体制自体が揺らいでしまいます。
いつでも、どんなことでも医師に対応してほしい、と望まれても、全てに応えることは難しい。国民が医療に求める要望と、実際に医療が提供できるものの双方をすり合わせていかなければ、安定した医療提供体制を保つことは難しいでしょう。

全ての医師が働き続けられる仕組みを作る
~日本医師会副会長 松原 謙二先生~(後編)

一対一の医療補助者

――そうした事態を防ぐためにも、医師の負担を軽減し、効率よく働くことができるような体制を整えていく必要があるということですね。

松:そうです。具体的には、現状は伝票の処理や紹介状の整理など、医師が事務的な仕事に割く時間が多すぎると感じます。もし、これらの事務的な業務を他の職種の方に任せることができれば、医師は医師にしかできない業務に専念することができるようになります。
理想としては、勤務医一人につき一人の医療補助者がつくような形が望ましいと思います。医師だけで仕事をしていると、その医師しか知らない情報が多くなり、他の医師が代わりに対応するということが難しくなります。しかし補助者の方に情報を共有しておくことができれば、他の医師が補助者から情報を得て、仕事を補いやすくなります。このような状態をつくることができれば、例えばお子さんが熱を出して帰らなければならなくなっても、他の先生に仕事を頼みやすくなります。
医師一人につき一人の医療補助者をつける。これが制度として実現され、当たり前になるような形にできれば、女性医師だけでなく全ての医師が休みを取りやすい、余裕のある勤務環境が実現できると考えています。

解決策の実現に向けて

――そのような解決策を実現していくために、日本医師会は何をしていくのでしょうか。

松:中医協(中央社会保険医療協議会)で「こういう制度に診療報酬をつけることが必要なのではないか」と提言したり、厚生労働省衛生局や保険局と議論したりして、制度化できるように尽力しています。中長期的には、どこかの病院でモデル事業としてこの制度を導入していただいて、実施した結果どう変わったのかをデータとして提示することができれば、制度化への大きな指針とすることができるのではないかと考えています。
国の打ち出す大きな医療政策も大事ですが、もっと現場に寄り添った視点で、勤務医の先生方がどうしたら楽になるのかを考えるのも、私たち日本医師会の仕事です。医師を代表する団体として、マクロな視点とミクロな視点の両方をもつことで、女性医師だけでなく全ての医師が働き続けやすい仕組みを作っていきたいと考えています。

 

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