日本医師会の取り組み
JAL DOCTOR登録制度
「お客様の中にお医者様はいらっしゃいませんか」という飛行機内でのドクターコール。スッと立ち上がって緊急対応する医師の姿に憧れる医学生も多いのではないでしょうか。では実際、機内ではどのくらいの急病人が発生していて、どんな対応をしているのでしょうか。
1日約1000便を運航する日本航空(JAL)の場合、2015年度に機内でドクターコールを行ったのは141件(国内線42件、国際線99件)、そのうち医師が対応したケースは、68%の96件だったそうです。
今回はJALの皆さんに、機内医療支援の取り組みについてお話を伺いました。
機内医療支援の取り組み
――2004年の調査*では、ドクターコールに遭遇した場合に「申し出る」と回答した医師は約42%、「その時にならないとわからない」が約49%だったそうです。医師からすると、「機内の医療設備では十分な対応ができないのではないか」「善意で対応したのに、何かがあったときに責任を問われることになるのが怖い」という懸念があるようですね。
錦野義宗さん(運航部):ドクターコールに応じていただいた医師からも、そのような声を頂くことはありました。JALでは、ドクターコールに対応していただいた方を賠償責任保険でお守りする仕組みを持っていますので、ご安心いただけると思います。
また、適切な処置を行っていただけるように、機内医薬品・医療品の充実も図ってきました。AEDや心肺蘇生を行うための蘇生キット(人工呼吸器・聴診器・電子血圧計・パルスオキシメーターなど)、原則として医師だけが使用できるドクターズキットなどを配備しています。ドクターズキットの中にはアドレナリンやブドウ糖液などの注射薬や各種内服薬などがセットされています。
(写真)ドクターズキットの中身。
――機内で急病人やけが人が発生したときは、どのような対応をするのですか?
溝口由紀さん(客室安全推進部):まずは客室乗務員が応急処置を施しながらドクターコールを実施します。そこで医師や看護師の方に名乗り出ていただければご協力をお願いしますが、キットにある器具や薬品には医師しか使えないものがありますので、医師の方が対応してくださるのは大変助かります。最近ですと、北米に向かう機内で急病人が発生した際に、医師の助言のもと緊急着陸し、速やかに医療機関へ搬送することができた事例があります。また、機内で医師の処置を受けられたことにより回復され、フライトを継続できた事例もあります。
*出典:大塚 裕司「航空機内での救急医療援助に関する医師の意識調査」『宇宙航空環境医学』2004、(41)、 57-78
日本医師会と協力
――今回「JAL DOCTOR登録制度」をスタートするということですが、どういった取り組みなのでしょうか。
滝正寿さん(マイレージ事業部):従来のドクターコールでは、実際の対応までに時間がかかってしまったり、不安・懸念からコールに応じていただけなかった場合もあっただろうと考えております。そこで日本医師会の協力を得て、「JAL DOCTOR登録制度」を2016年2月より開始しました。
これは、JALのマイレージ会員で医師資格証をお持ちの方に、事前にJALのホームページから登録していただく制度です。急病人発生時には、客室乗務員が登録医師の座席番号と専門の診療科(国際線の場合)を把握し、医師にすぐに直接お声掛けできる仕組みになっています。
西川和久さん(マイレージ事業部):医学生の皆さんも、医師になられた際には、診療科を問わずご登録をお願いします。機内のドクターズキットを使用して注射や挿管などの医療行為を行えるのは医師だけですし、提携しているメディカルコールセンターの救急医の支援を受けることもできるため、専門性は特に問われません。
ご登録いただいた医師には、ほんの気持ちばかりですが、国内線のラウンジをご利用いただける特典もご用意しております。
――いざという時に人のために安心して動ける体制を作っていただけるのは、医師にとってもありがたいですね。このような取り組みが、さらに広がっていくことを期待します。
WEB:https://www.jal.co.jp/jmb/doctor/
客室乗務員向けに、AEDの使用方法などの講習会を実施しています。
COLUMN:医師資格証
「JAL DOCTOR登録制度」に登録するためには、日本医師会電子認証センターが発行する医師資格証が必要です。医師資格証は、医師であることの証明のために使えるICカードです。
近年、医療のIT化が進み、機関・施設を超えて診療情報をネットワーク上でやりとりするようなシーンも現実のものとなってきました。
そこで、日本医師会電子認証センターでは、ネットワーク上で医師資格を証明するための電子証明書を発行しています。
電子証明書は医師資格証に搭載されたICチップの中に格納されています。ICチップをカードリーダーで読み取ることで、ネットワーク上での本人確認や、電子カルテ等への電子署名が可能になります。
これまで、勤務する医療機関のIDカード等はあっても、「医師であること」を全国共通で証明できる携帯可能な身分証はありませんでした。
医師資格証は、携帯しやすいようカード型になっています。また、顔写真付きなので、現場での本人確認にも使えるようになっています。航空機内で急病人が発生したときや災害等の緊急時に、医師免許証の代わりに医師資格証を提示することで、いわゆる「なりすまし」や「ニセ医師」の防止につながることが期待されます。
医師資格証の発行は、日本医師会員であれば初回発行手数料・年間利用料とも無料です。研修医は日本医師会の会費も免除されていますので、医師免許取得時にはぜひ登録してみてください。
申込方法・詳細についてはWEBページをご覧ください。
- No.44 2023.01
- No.43 2022.10
- No.42 2022.07
- No.41 2022.04
- No.40 2022.01
- No.39 2021.10
- No.38 2021.07
- No.37 2021.04
- No.36 2021.01
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- 医師への軌跡:木佐貫 篤先生
- Information:Summer, 2016
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- 特集:協働的意思決定を行うということ
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- 特集:患者本位の医療を目指して
- 特集:診療ガイドラインQ&A 教えて、山口先生!
- 同世代のリアリティー:「国」を動かす官僚の仕事 編
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- 10年目のカルテ:呼吸器外科 濱中 瑠利香医師
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- 大学紹介:帝京大学
- 大学紹介:京都府立医科大学
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