人々が健康に生きるために欠かせない予防接種は、どのような経緯で導入され、どのような仕組みに支えられているのでしょうか?

 

ワクチンの意義と目的

ワクチンは、弱毒化・無毒化した病原体を人体に投与(接種)することで、あらかじめ病原体への免疫をつけて感染を予防するもので、「医学史上最大の発明品」とも言われています。ワクチンには、接種を受けた本人が病原菌やウイルスから守られるという効果だけでなく、できるだけ多くの人が接種を受けることで、様々な理由で接種を受けられない人たちまでも守るという集団免疫効果もあります。

そんなワクチンですが、その性質上、ごく稀に重篤な副反応を起こすケースがあります。しかし、現在はより副反応の少ない安全なワクチンの開発が進んでいるほか、ワクチンの開発や製造・販売については法や政省令に基づく厳格な安全管理が行われています。

予防接種を知ろう

日本で生まれた子どもの多くは、生まれてから数年の間にたくさんのワクチンを接種することになります。また、医学生の皆さんは、病院実習などの前に、B型肝炎や麻しん・風しん・水痘・流行性耳下腺炎、結核などの抗体価検査を受けたり、必要に応じてワクチン接種を受けたりする機会もあったことでしょう。

2021年2月、日本で新型コロナウイルスワクチン接種が開始され、12月現在では日本に住む人の約8割が2回目の接種を終えたとされています。この接種事業を行うにあたり、ワクチンの特例的な薬事承認や在庫の確保、超低温を維持した配送・保管、各自治体における接種業務に携わる医療従事者の確保や接種会場の確保、住民への接種券の発送のオペレーション、接種予約システムといった部分に大きな注目が集まったことは、記憶に新しいところでしょう。

しかしもちろん、ワクチン接種を安全に行うために様々な準備やオペレーションが行われるのは、新型コロナウイルスワクチンに限ったことではありません。例えば皆さんがワクチンを接種するとき、使用されるワクチンはどのように開発され、製造・配送されるのか知っていますか?ワクチン接種を行うために、現場ではどのような準備が行われているのでしょうか?

今回の特集では、ワクチンの開発・発展の歴史や、今日の日本の予防接種制度が構築された経緯、予防接種を支える様々な仕組み、そして新型コロナウイルスワクチン接種などを通じて見えてきた、現行の予防接種制度の課題や今後のあり方について解説していきます。