交流ひろば

第13回放射線医学オープンスクール体験記

医師のキャリアパスを考える医学生の会 妹尾 優希

昨夏8月16日から30日にかけて、医師のキャリアパスを考える医学生の会(以下、医学生の会)は、医用原子力技術研究振興財団と医学物理若手の会と共に、「第13回放射線医学オープンスクール~きいてみよう! 放射線医学のこと~」を開催しました。例年では、放射線医学の最先端の現場見学や、第一線で活躍される先生方の講義を、医療に関心のある医療系や物理工学系の学生を対象に実施していました。しかし、今年は、新型コロナウイルスの感染拡大に伴い、【第Ⅰ部】のオンデマンド配信と【第Ⅱ部】のオンライン・トークイベントのライブ配信の2部構成にて実施しました。オープンスクール初の試みとなるオンラインでの企画でしたが、医学生や、放射線学科・物理学科を専攻する学生を含む123名がオンデマンド配信を視聴し、オンライン・トークイベントには45名の方が参加しました。

本稿では、医学生の会がオンデマンド配信にて発表した動画の概要や、本オープンスクールで学んだことについて紹介させていただきます。

まず、オンデマンド配信では、量子科学技術研究開発機構QST病院医長の瀧山博年先生による「放射線医学の最先端を知る~放医研の表と裏をお見せします~」、医学物理若手の会による「医学物理士の一週間-医学物理士の魅力」、医学生の会による「医学生からみた放射線医学 イメージや疑問点」の三つの発表動画を公開しました。
(現在はhttps://antm.or.jp/04_talent/03.htmlにて一般公開されています。)

瀧山先生の発表動画では、重粒子線を中心とした放射線治療を用いた最新の治療とその研究が行われている放射線医学総合研究所の部署や、勤務されている研究者の方々についてご紹介いただきました。医学物理若手の会の方々による発表動画では、医学生にはあまり馴染みのない医学物理士の方の日常について説明いただきました。医学生の会は、「現役医学生に聞く放射線医学のイメージ・問題点」をテーマに、現役医学生20名を対象に、放射線治療・診断、大学で行われている放射線医学の授業、放射線医のキャリアについてどのようなイメージを持っているかインタビューをした結果を発表しました。また、参加者を飽きさせない工夫として、医学生の会ではVtuberを用いて、結果をボーカロイドの曲にして一部発表しました。

●授業や実習で放射線への「漠然とした不安感」解消

インタビューでは、放射線治療・診断科へのイメージを、座学と実習の両方を修学済みの学生グループ(10名)と、座学・実習のどちらか、または両方とも未修学の学生グループ(10名)で比較しました。

まず、未修グループの放射線治療に関する回答は、「よくわからないが、なんとなく被ばくが不安」「リスクが高い気がする」というネガティブな内容が多い結果となりました。これは、医療者ではない一般の方の放射線治療に対するイメージに近い印象です。それに対して、既修グループは、ポジティブな意見を持つ学生が多かったです。「見学した時の患者さんがニコニコしていた」「手術や薬を使用している治療中の患者さんより放射線治療を受ける患者さんは負担が軽そうだった」など、病院で実際に治療を受ける患者さんの様子を見学したことで、ポジティブな印象を持つきっかけになったと答える学生もいました。

大学の座学授業と実習の両方を受けることで、治療に関する知識を得られるだけではなく、「よくわからないけど、なんとなくリスクが高い気がする」といった放射線治療に対する漠然とした不安感も解消されていることがわかりました。

●女性医師の働きやすさ

放射線医のキャリアや働き方に関する質問では、「QOLが高い」「女性医師でも働きやすい」という回答が寄せられたため、オンライン・トークイベントにて先生方に尋ねてみました。

瀧山先生は「基本的には、休みを取りやすく、日中業務のみで夜中に呼び出されることはないため、性別を問わず働きやすい」とお話しされていました。これについて、モデレーターの若月優先生も同意見で、「コロナ禍ということもあり、様々な病院施設がオンラインの読影を積極的に取り入れる傾向にある。そのため、育児中で長時間勤務ができない女性医師であっても、子育てを昼間にして夜中に読影をするという働き方が可能となっている」とお話しされていました。

また、病院側の利益も大きくなるため放射線科の設備を大きくしたい医療施設が多い反面で、放射線を専門とする医師不足がボトルネックとなっている背景から、放射線専門医の雇用需要はかなり高いそうです。先生方のお話を聞きながら、家庭と仕事を両立させたいと考える医師にとっては、性別に関わらず理想的な職場環境だと感じました。

●インタビューを通して見えてきた医学生の『理想とする医師の働き方』

今回のインタビューでは、回答をした学生のほとんどは、一般的に理想とされている「自分の時間を持てる」「ワーク・ライフ・バランスが良い職場で働く」といった職場環境を求めているわけではないということが印象的でした。

また、放射線医師の働き方に関する質問で、放射線科のキャリアについてネガティブな印象を持つ学生の多くは、患者さんと話す機会が少ないことを欠点として挙げていました。放射線科以外の科を専攻したい理由に関する質問でも、患者さんとのコミュニケーションの重要さや、全国的に症例数の少ない疾患より、身近な健康上の問題を解決する医師になることを理想としていると話す学生が多くみられました。

近年の医学教育現場では、パソコンの画面を見続けている医師像の反省から、患者さんや家族とのコミュニケーションを十分にとることが望ましいと教育されています。これに伴い、学生側も患者さんや家族と丁寧に接することができる医師になりたいと希望する傾向にあることが示唆される結果となりました。

 

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医学生の会による「医学生からみた放射線医学 イメージや疑問点」発表動画

 

「第13回放射線医学オープンスクール~きいてみよう!放射線医学のこと~」
イベントポスター(クリックで拡大)

 

※寄稿:2021年11月
※寄稿者の所属は寄稿時のものです。