在宅医療を支援する仕組み(前編)

日本医師会と日本プライマリ・ケア連合学会は、様々な視点から在宅医療に携わる医師たちを支援する仕組みを整えています。

まちづくり、地域づくりの視点で

日本医師会 高杉 敬久常任理事

在宅医療は、今後の超高齢社会においてますます求められていくでしょう。その中で、医療がどのような役割を担っていくべきかを考えたとき、日本医師会が目指すあり方は、まちづくり、地域づくりにかかわる医療です。まちづくりにおいて、医療にできることは2つあります。

まずは介護予防です。もし骨折などのトラブルがあった場合でも、残された機能はできるだけ維持したまま社会生活を送れるような支援をすることです。もちろん適切なリハビリを提供するといった臨床での貢献もありますが、地域ケアの制度づくりを行政だけに任せるのではなく、医療・介護分野も融合しながら総合的に行っていくことが求められています。

そしてもうひとつは命の保証です。例えば一人暮らしの高齢者が、見かけないと思ったら家で亡くなっていたというような不幸な死は減らしていかなければなりません。不本意な死に方ではなく、死に方においても自身の意志が通るような生活を形作るサポートをするのが、まさに在宅医療において求められる思想だと思います。

こうした考え方をもった地域のかかりつけ医の育成を目指して、日本医師会では今年3月に「在宅医療支援フォーラム」、7月に「在宅医リーダー研修会」をそれぞれ開催しました。これまでの考え方に囚われず、新しい柔軟な考え方で在宅医療に臨む医師が増えていくことを期待しています。


ITを活用した情報共有の発展を目指して

日本医師会 石川 広己常任理事

医師だけでなく看護師や介護スタッフなど様々な職種の協力で成り立つ在宅医療においては、患者さんの医療や生活の情報共有がとても大事になります。また24時間体制で患者さんを見守る体制を築くためには、地域の医師同士が情報を共有し、ネットワークを築くことも必要とされるでしょう。

このような情報共有の手段として、ITの活用が期待されています。けれども、どの情報をどこまで共有すべきか、セキュリティは万全なのか、といった点で多くの課題があることも事実です。

これらの課題を解決するために、日本医師会は厚生労働省の「在宅医療と介護の連携のための情報システムの共通基盤のあり方に関する調査研究」などに参加したり、保健医療福祉分野の公開鍵基盤(HPKI: Healthcare Public Key Infrastructure)の枠組みを利用して医師であることを証明する「日本医師会認証局」の運用を行っています。安心・信頼できるセキュリティのもとで情報の共有が実現できれば、医療の質の向上にもつながると考えています。


在宅医療を支援する仕組み(後編)

ジェネラリストを目指す若手医師を支援する

日本プライマリ・ケア連合学会 若手医師部会

近年、研修医や医学生のジェネラリストへの関心は高まってきています。しかし2000年頃、その養成のための研修プログラムは充分に整備されているとは言えませんでした。当時、ジェネラリストを目指す者の多くは全国各地に散らばりながら、孤軍奮闘して研修を行っていました。しかしながら、孤軍奮闘ではなく、「交流とネットワークづくり」を行っていくこと、若手医師の「意見集約を行うこと」が急務の課題であることが認識されるようになりました。

2003年夏ごろより、若手医師たちの間で、学術集会やセミナーなどの場で、自分たちに必要な研修などについて話し合う機会が増えてきました。同年の秋からは、メーリングリストという形で徐々に仲間を増やし、後期研修施設調査や、今後の後期研修充実に向けたアイデアなどを多く出してきました。このような若手医師たちの意見を集約し、具体的な活動を行っていくために、2004年の秋に『若手家庭医部会』を有志の会として設立、2005年5月に正式に学会内の一組織として承認されました。

学会の合併や、対象を広げより大きな活動を展開する意図もあり、現在は『日本プライマリ・ケア連合学会 若手医師部会』と名称を変えて活動しています。家庭医療後期研修施設調査プロジェクトや若手医師を対象としたワークショップの開催、若手医師同士の交流促進など、様々な活動を行っています。


「かかりつけ医」と「総合診療専門医」

日本医師会 小森 貴常任理事

日本医師会では、厚生労働省「専門医の在り方に関する検討会」で議論された新しい専門分野「総合診療専門医」について、その専門性を評価することに関しては肯定的な立場を取っています。これまで日本では、医師はまず各科の専門性を深化し、その後さらに特定の科の専門性を深化していく方向と、専門性を有した状態で幅広い診療能力を身につけていく方向とに分かれていくという流れがありました。しかしながら、領域別の専門性が重視され、総合的な診療能力は医療的な面からは評価されてこなかった歴史がありました。そこで、こうしたプライマリ・ケアの能力を評価するため、新たに「総合診療専門医」という資格を作ろうという流れになっているのです。

ただし、日本医師会が提唱する「かかりつけ医」という言葉は、必ずしも総合診療専門医のことを意味するわけではありません。様々な医療機関や多職種との連携を通じて地域のニーズに応える「かかりつけ医」の機能は、社会的課題も含むものであり、すべての医師が持つべき役割なのです。例えば、在宅での診療をはじめ、時間外対応・健診・母子保健・学校保健・がん検診・産業保健といった機能は、地域で働く医師であれば専門科が何であれ行っていく必要があるということです。

そこで、すべての医師がプロフェッショナル・オートノミーに基づき、日々資質の向上に励めるよう、日本医師会では生涯教育制度を整えているのです。総合診療を専門としている医師でも、他の専門であっても、かかりつけ医としての役割をしっかり果たしていただけるようにサポートするのが、日本医師会の使命だと考えています。そのために、研修会や講習会を充実させると同時に、在宅医療やチーム医療の成功事例を紹介するカンファレンスなどを増やしていこうと取り組んでいます。