多様な患者さんを
トータルな視点で診察したい
【呼吸器内科】武岡 佐和医師
(大阪府立呼吸器・アレルギー医療センター
肺腫瘍内科)-(前編)
呼吸器内科に惹かれて
――初期研修が始まってすぐに、呼吸器内科に決めたのですか?
武岡(以下、武):いえ、はじめは糖尿病内科に入ろうとしていました。呼吸器内科に興味はあったけれど、将来の結婚や出産を考えたら、もっと続けやすい科のほうがいいかなと。そこで卒後3年目には糖尿病内科を選んだのですが、やはり呼吸器内科への思いが捨てきれませんでした。悩んだ末に、当時糖尿病内科の部長だった女性の先生に相談したところ、「私も本当は循環器に興味があったんだけれど、将来を考えて糖尿病内科に入ったの。そんなに呼吸器に思いがあるなら、やりたいことをやるべきよ!」って、背中を押してくださったんです。呼吸器内科も人手が不足していたので、歓迎していただきました。
ーーそこまで呼吸器内科に惹かれたのはなぜですか?
武:初期研修1年目の4月に呼吸器内科を回ったとき、肺がんの患者さんを担当する機会があり、1回目の抗がん剤治療がすごくよく効いたのを見て感動したんです。けれどその患者さんは、2回目の抗がん剤治療の前に状態が悪くなって、亡くなってしまいました。治療の醍醐味と無力さを同時に味わったことが、呼吸器内科に興味を持ったきっかけだと思います。
ーー呼吸器内科では、どのような疾患を診るのですか?
武:多種多様な肺炎・結核などの感染症、肺がん、気管支喘息、COPD、他疾患をベースにした慢性呼吸不全など、幅広い疾患を経験しました。挿管して人工呼吸器をつけて…といったスピーディーな処置が求められる場面もあれば、がんの終末期や、高齢者の誤嚥性肺炎など、看取りまで行う場面もあります。その両方を管理できるところにやりがいを感じました。
ーーその後も医局に所属せず、市中病院を回られていますね。
武:私は、専門を究めるというよりは、急性期治療もがん治療も、看取りも、気管支喘息やCOPDの管理も、とにかくいろいろなものを診られるようになりたいと思っていたんです。そう考えたら、症例が多様で豊富な市中病院で働きたいなと。3年間でひと通りの症例を診た後、今度はどうしようかと思っていたときに、気管支喘息やCOPDに力を入れている先生がいらっしゃるという別の市民病院を紹介してもらい、じゃあ今度はそこで重点的に勉強してみようと、病院を移りました。
ただ、やっぱり市中病院ってかなり忙しいんです。呼吸が不安定な患者さんが多いから、病棟から呼ばれる回数も多いし、救急対応もしなければならない。体に負担がかかったのか流産も経験しました。「じっくりと腰を据えて患者さんを診る機会も必要かもしれない」と考えていたとき、専門病院である今の病院に声をかけてもらいました。
多様な患者さんを
トータルな視点で診療したい
【呼吸器内科】武岡 佐和医師
(大阪府立呼吸器・アレルギー医療センター
肺腫瘍内科)-(後編)
専門病院で得られるもの
――専門病院には、市中の総合病院とは違う学びがありますか?
武:まずは最先端の気管支鏡技術を習得できます。また肺がん治療においては、例えば初回の抗がん剤を選択する際、今までは手持ちのガイドラインに沿って型どおりに選択していたのが、当院では最新の研究結果を踏まえカンファレンスで検討を重ねて決定します。微妙な効果判定や抗がん剤を変更するタイミング、2次治療の決定にも専門病院ならではの絶妙な技があって、カンファレンスや先輩のアドバイスは勉強になります。
――市中病院より働きやすい環境なのでしょうか。
武:圧倒的に先生の数が多いので、余裕はあります。完全当直制なので、夜は当直の先生が対応してくださるのもありがたいです。また、「もし妊娠したら、放射線を使う検査や当直は免除しますから、すぐに言って下さい」と言ってくださるなど、女性に優しい雰囲気もありますね。けれど、先生がたくさんいるとはいえ、私が抜けることでしわ寄せもあると考えたら、実際にはなかなか妊娠に踏み切れません。制度が整っていても、すぐに利用する気になれるかと言われると複雑ですね。
相談できる先輩も意外といないもので…。私は出産後も病棟で患者さんを診ていきたいのですが、実際には外来だけという先生が多いです。ちょうど今、仕事が楽しい時期なので、もし妊娠してしまったら…という気持ちは常に持っています。この病院の強みである内視鏡の技術を身につけることもできなくなってしまうし、何のためにここに来たのかわからなくなってしまうような気もして。ただそれでは結局市中病院で働いていた頃と同じになってしまう。せっかく妊娠しても温かく見守ってもらえる環境にいるのだから、ご迷惑をおかけするかもしれないけれど、そのときはお願いするしかないかなと、少しずつ思い始めています。
いずれはまた市中病院に
――10年後、どういう医師になっていたいですか?
武:そのときの家庭の状況にもよりますが、やっぱり市中病院に戻りたいですね。市中病院は、最終的に様々な患者さんの受け皿になっているところなので、患者さんの治療後の生活や看取りについても考えながら、臨機応変に対応することが求められる場だと思うんです。それまでに学ばせていただいたことを活かしながら、多彩な患者さんをトータルな視点で診られる医師でありたいと思っています。
2007年 和歌山県立医科大学卒業
2013年10月現在 大阪府立呼吸器・アレルギー医療センター 肺腫瘍内科
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