医師への軌跡

医師の大先輩である大学教員の先生に、医学生がインタビューしてきました。

一人ひとりの医師の思いを尊重できる職場環境を
後藤 理英子
熊本大学医学部附属病院 糖尿病・代謝・内分泌内科 
地域医療支援センター 特任助教

職場復帰しやすい環境を

河野(以下、河):先生は、熊本県女性医師キャリア支援センターでのご活動をはじめ、男女共同参画に関する取り組みに積極的に関わっておられますよね。

後藤(以下、後):はい。出産や育児で一度職場を離れた医師が、また働きたいと思った時に現場に戻れる環境を作りたいんです。もちろん、産後すぐに職場復帰する方もいますが、様々な事情でしばらく復帰が難しかったり、育児に追われるなかで働くことまで気が回らないこともあるでしょう。けれど、どこかのタイミングで「また働きたい、働ける」と思ったなら、それを尊重したい。やる気のある医師が働けないのは、本人にとっても社会にとっても、すごくもったいないことだと思うんです。

:「女性医師支援」とよく聞きますが、働きやすい環境づくりは、男性医師にも無関係な話ではありませんよね。

:もちろんです。医師を対象とした調査でも、育児介護休暇を取得したいと答えている男性は5割弱いるのですが、実際に取れている人はほとんどいません。男女関係なく、上手に休暇を取り、家庭に関わる時間を持つことを、働くモチベーションにもつなげられるといいですよね。

自分の「好き」を大切に

:働き続けることをサポートしてくれるパートナーを見つけるのも大変そうです。

:それを不安に思うのもわかります。でも、最初から「こういう相手じゃないと嫌だ」と決めつけない方がいいと思いますよ。大切なのは歩み寄りだと思います。好きな相手のためにお互いのキャリアを尊重し、助け合おうと思えるといいですよね。

:診療科選びも、相手の事情に合わせるべきでしょうか?

:そこは自分の「面白い」や「好き」を尊重してほしいです。仕事は一生ものですし、大変な時ほど、好きでないと続けられませんから。私の周りでも、活躍している人は「仕事が好き」というエネルギーにあふれています。周囲の事情に合わせて選択して、後悔するのも悲しいですしね。

:私は将来留学もしたいと思っているのですが、パートナーや子どもがいたら、難しくなってしまうことはないでしょうか。

:いいえ、ご家族を連れて行かれる先生も多いですよ。お金がかかっても、家族全員の経験値を上げる方が大切だと思います。「いいのかな」と迷うよりも、「なんとかして行きたいんだ」という強い気持ちをちゃんと伝える方が、理解や協力も得られると思います。

成長し続けられる職業

:最近は、「バリキャリ」「ゆるキャリ」などの言葉を聞くこともあります。私自身は、どちらかというと「卒業したら仕事に全力を注ぎたい」と考えてきたのですが、それだけが正解ではないですよね。

:そう思います。皆さん一人ひとりに、「できること」「やるべきこと」「やりたいこと」があるはずです。その時々、自分にとって心地よいバランスをとっていけば良いのだと思います。

:ブランクがあくと、きちんと仕事を再開できるのかという不安もあるのですが…。

:私は産休・育休を取りましたが、むしろ仕事から離れる期間があってよかったと思っています。休んで仕事ができない期間があったからこそ、働きたいという思いが強く湧いてくる。周りを見ていても、休む前より熱心に働いている医師が多いくらいです(笑)。

私は早くに子供を産んで、周りに遅れをとった部分もあるけれど、今も少しずつ、確実に成長し続けていると思うんですね。医師って多分いくつになっても、常に学ぶべきことが目の前にある。こんなにやりがいのある職業はないんじゃないかな、と思います。

後藤 理英子
熊本大学医学部附属病院
糖尿病・代謝・内分泌内科
2001年、熊本大学医学部卒業。臨床研修期間中に第一子を出産。現在、糖尿病・代謝・内分泌内科で臨床・研究に携わるほか、同院の地域医療支援センターにて特任助教を務める。

畑 裕加里
熊本大学医学部 5年
臨床・研究や留学と結婚・出産を両立できるのか不安に感じていたのですが、自分の思いを伝えれば、周りもきっとわかってくれる、と思えるようになりました。

河野 杏奈
熊本大学医学部 6年
臨床研修先選びで悩んでいた時期に、先生のお話を伺うことができてよかったです。「好き」を大切にしてほしい、という言葉に励まされました。