グローバルに活躍する若手医師たち

日本医師会の若手医師支援

JMA-JDNとは

Junior Doctors Network(JDN)は、2011年4月の世界医師会(WMA)理事会で若手医師の国際的組織として承認されました。JDNは、世界中の若手医師が情報や経験を共有し、未来の医療を考えて行動するための画期的なプラットフォームです。日本医師会(JMA)は2012年10月に国際保健検討委員会の下にJMA-JDNを立ち上げました。これまで若手医師の集まりは学会や医局、地域、NGOなどの枠組みの中でつくられてきました。JMA-JDNは、多様な若手医師がそれらの枠組みを超えて、公衆衛生や医療分野において自由に自分たちのアイデアを議論し行動できる場を提供したいと考えています。関心のある方は検索サイトやFacebookで「JMA-JDN」と検索してみて下さい。

今回は、JMA-JDNの若手医師より、JMA-JDNのさまざまな活動の報告を寄せてもらいました。

 

第2回欧州日本人医師会青年部会との交流会 in ミュンヘン

JMA-JDN 副代表(外務) 鈴木 航太

昨年のハンガリーに引き続き、2017年4月29~30日にドイツのミュンヘンにて開催された、第2回欧州日本人医師会(JMAE)青年部会とJMA-JDNとの交流会に参加してきました。JMAE青年部会とは、欧州での医師免許取得・就職・専門医取得といった過程をサポートすることを目的としている組織で、主に欧州の医師免許を持ち勤務している医師、または欧州の医学部に在籍している医学生で構成されています。今回の交流会にも、スロバキア・ブルガリア・ルーマニアなど欧州各地からメンバーが集まりました。

まずは、JMAE青年部会とJMA-JDNそれぞれから活動の現況について報告があり、その後、参加者各々が自身のキャリア、各国の医療や生活の様子、今後の方向性といった内容についてプレゼンテーションを行いました。日本で医学を学んだ我々とは違い、文化・言語が異なる環境で医師として勤務する、あるいは医師を目指すのは想像以上の困難があることを感じつつも、その中で日々頑張られている皆様の姿に感銘を受けました。そして、ともすれば孤立しがちな環境で生活している日本人が、このようにface-to-faceで情報交換や相談をできる場があるというのは、非常に心強いだろうと実感しました。更に、地域の基幹病院であるKlinikum Harlaching病院の見学も行うことができ、腎臓内科のCohen教授に直々に病棟・放射線科・救急外来といった院内の様子を案内していただきました。

夜は皆でソーセージや白アスパラガスといったドイツ料理を楽しんだり、翌日にはレジデンツなどの観光名所やビアガーデンにも連れて行っていただくなど、ドイツの食や文化も満喫することができました。

今回、JMAE青年部会の方々と情報交換ができたことは、自分にとって非常に有意義な経験であり、将来についても改めて考えさせられるきっかけとなりました。開催に際してご尽力いただきましたJMAE青年部会の皆様に心より感謝申し上げます。

鈴木 航太
川崎市立川崎病院で臨床研修修了後、慶應義塾大学病院精神・神経科学教室へ入局。2016年4月より同大学大学院博士課程所属。精神科専門医・精神保健指定医。

 

グローバルに活躍する若手医師たち

英国NHSを覗く
―自己負担0割の意味―

JMA-JDN 役員(国際担当) 林 伸彦

2016年より、英国のNational Health Service(NHS)にて臨床研修中です。今回は、内部から見た英国医療の特徴を紹介します。

英国の病院は、公的医療機関(NHS病院)と私的医療機関(私立病院)の二つに分かれています。NHSは税収などの一般財源によって賄われており、原則無料で提供されています。無料ゆえに患者数は多く、受診までの時間が長かったり、必要最低限の医療しか受けられないという評判もよく耳にします。しかし、勤務する側になって良い面も見えてきました。

第一に、予防医療が推進されている点です。NHSの場合、病院の医療内容や医療圏の大きさで予算が決められており、市民が健康でいるほど経営がうまくいきます。疾病予防やリハビリテーションを含めた包括的な保健医療サービスが発達してきたのは、このおかげでもあると考えられます。次に、臨床研究を推進する土壌がある点です。公的病院はいわばNHSの管理下にあり、病院間での治療方針の違いも少なく、他施設と共同での臨床研究が盛んです。医療者のワーク・ライフ・バランスが比較的保たれていることも実感します。医療機関受診の際のトリアージを徹底した結果、社会保障としての医療はNHSで、サービスとしての医療は私立病院で、という構図になっており、それぞれ医療リソースに応じた患者数になっていると感じました。最後に、患者主体の医療になっている点も特徴的です。英国の医療は、まずGeneral Practitionerを受診し、必要があれば大きな病院を紹介する仕組みです。この紹介の際や、病院を変えたいときなどは、患者自身が状況を把握して主体的に医療機関を選びます。患者に関する全ての情報を本人に渡すため、インフォームド・コンセントも、「説明と同意」という本来あるべき形になっていると感じました。

総じて言えば、英国の医療は国民からの評判が悪いのは否めません。それでもその背景にある考え方から学ぶことは多数あります。誰もが納得する医療制度を作れた国は未だ無いように思います。変わりゆく社会の中で、最適な医療を模索するのも面白いと感じる留学生活です。

林 伸彦
千葉県で臨床研修・産婦人科後期研修修了。NPO法人親子の未来を支える会代表。英国NHSの胎児科で臨床研修中。

 

視野を広げて
―若手医師の国際ネットワークから―

JMA-JDN 役員(国際担当) 佐藤 峰嘉

私は現在、北海道の地方都市の病院で呼吸器内科に勤務しています。

呼吸器疾患を診療していることもあり、喫煙歴、職業上の吸引歴や居住環境についてなど、患者さんの生活背景について細かくお話を伺うことが多くあります。

また、慢性的な呼吸器疾患で増悪と寛解を繰り返し、在宅酸素療法を必要とする患者さんも多く見られます。そのような疾患で生活の範囲が制限されたり、何度も入院が必要になったりする患者さんに対して急性期には病因に応じた治療をし、安定期にはワクチン接種を勧めるなどの増悪予防策を講じるのです。

しかしながら、例えば特に喫煙等の生活様式の選択が疾患の原因になっている場合、その方にそもそもそういう選択をさせないという方法はなかったのでしょうか。

急性期病院で働く医師として、患者さんにいわば事後的にしか携われないことに不十分さを感じることが私にはあります。私たちには他にできることはないのでしょうか。今ここに挙げたのはほんの一例ですが、多忙な日常診療のなかで、私たち医師の視野が狭くなっているということはないのでしょうか。

JMA-JDNは、国際的なつながりの中で若手医師によるプラットフォームを形成し、公衆衛生や保健医療政策分野の幅広い活動を展開することを理念としています。

設立から日も浅く、メンバーの多くは臨床医であり、当然のことながら、本業として公衆衛生や保健医療政策に携わっている方々と比べて、何かを達成できているわけではないと言わざるを得ません。

しかしながら、実際に目の前のひとりの患者さんを治療する私たちだからこそ、現在起こっている問題として、保健医療について考え、方策を講じていくことができると考えています。

JMA-JDNはこれまで、世界医師会JDNのネットワークを活かした各国の若手医師との人的交流を通じて、抗菌薬適正使用の啓発活動や保健医療政策・卒後教育の課題の共有などを行ってきました。今後、より活動の内容を広げて深めていく所存です。

佐藤 峰嘉
2012年北海道大学卒。砂川市立病院で臨床研修修了。呼吸器・総合内科を研修し、現在王子総合病院に勤務。

※先生方の所属は2017年7月現在のものです。