FACE to FACE

池尻 達紀 × 荘子 万能

各方面で活躍する医学生の素顔を、同じ医学生が描き出すこの企画。
今回は対談形式でお送りします。

 

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――お二人は2015年の日本医学会総会の学生フォーラム*1の運営委員をはじめ、現在に至るまで様々な活動をしてきていますよね。根底にはどんな思いがあるのでしょうか?

荘子(以下、荘):医学生には、患者さんと医療者との間にいる存在として、両者の架け橋になれる可能性があると考えています。「医師にとって当たり前のことが、患者さんにとってはそうではない」という状況はよくありますが、学生はちょうどその「当たり前」を学んでいる途上にいるんですよね。学びの新鮮な驚きを伝えることで、一般の方が新たな知識を得やすくなればいいな、と思っています。

池尻(以下、池):僕は、学生という視点を活かして、時代の変化に対応したこれからの「医療のあり方」を考えたいという思いがあります。現在の医療界で主流とされる活動だけでなく、例えばTD会*2のように、今は十分に注目されていない分野について価値観を形成していく、地道な活動にも取り組んでいきたい。また、立ち上げた活動を、後輩にうまく引き継いでいくことも大切だと思っています。

――活動のなかで、学んだことは何ですか?

:自分の価値観を押し付けるだけの、一方通行のコミュニケーションではだめだということ。対話の重要性と言ってもいいかもしれません。自分と異なる価値観に出会ったとき、対立するのでなく、互いに相手の考えを知って変容することによってこそ、価値が生まれると思います。

:そうですね。医学生の団体やコミュニティでも、多様な価値観がうまく調和しているところの方が、大きな力を発揮しているように感じます。

:池尻と話していて楽しいのは、意見が異なるときにも、目的を共有しながら議論することができるから。僕たちは車のアクセルとブレーキみたいだとよく思うんです。視点が違ったり、スタンスが違ったり、違う方向の力を持っているけれど、同じ車に乗っていて、同じ目的地を目指しているなって。

――将来の進路については、どう考えていますか。

:医学知識そのものよりも社会的な活動に関心があるように見えるからか、周囲から「本当に医師になるの?」と言われることもあります。でも、僕は幼い頃から臨床医になりたいと思ってきたので、まずは臨床に十分に関わりたい。そのうえで、どうすれば社会により幅広く貢献できるか考えたいです。

:僕もまずは臨床医になるつもりです。そのうえで将来は、臨床に関わる/関わらないの二択ではなく、医療と他分野をつなぎつつ、それをどう臨床に活かせるか、考えていきたいです。

――後輩に伝えたいことはありますか。

:学生の間は、簡単に選べる選択肢が、次々と目の前に現れてくると思います。だからこそ主体性を大切に、周りに流されないようにしてほしいです。僕自身も、本当に自分の価値観に合致するのは何か、立ち止まりつつ考えるようにしてきました。

:医学生一人ひとりに、自分にしかできない、その時にしかできないことがある。それを見つけてほしいです。自分にはそんなものないと思っていたら見つからないけど、あると思えば必ず見つかりますから。

:学年や経験を気にしすぎる必要はありません。1回生の視点と6回生の視点は違うからこそ、後輩から学ぶこともたくさんあると常々思っています。もし関心分野が重なれば、一緒に活動できたら嬉しいですね。

*1 学生フォーラム…医学会総会に合わせて開催された学生のセッション。関西の医療系学生が集まり、3年間の準備期間を経て医学会総会で発表を行った。

*2 TD会…2014年に発足した勉強会、「学生と読むTomorrow’s Doctors」。詳細は、ドクタラーゼ第20号「医学教育の展望」参照。

池尻 達紀(京都大学6年)
1992年生まれ。「医療」「健康」「病」とは何かを社会的な視点から考えることに関心を持ち、「グローバルヘルス」「地域医療」「医学教育」に関連する様々な勉強会や学会活動への参加、WHO本部や厚生労働省でのインターンシップを経験する。将来の夢は、外科医と社会医学研究者の両方の視点を持った医師になること。

荘子 万能(大阪医科大学6年)
1992年生まれ。「学びながら社会貢献」をキーワードに、医学生だからこそ社会に提供できる価値を模索し、活動中。一人で1万の能力を持つのではなく、一つの能力を持つ1万人と仕事ができる人でありたい。30年後、月面でも仕事することが目標。総合診療医・徳田安春氏とのポッドキャスト「徳田闘魂道場にようこそ」にてMCを務める。

※医学生の学年は取材当時のものです。