シリーズ連載
医科歯科連携がひらく、これからの「健康」④
これからの医科歯科連携を考える(前編)

株式会社ロッテ・日本歯科医師会・日本医師会鼎談

この連載では、これまで3回にわたって、医科歯科連携の重要性や、病院や地域での連携の事例を紹介してきました。最終回である今回は、本企画の協力会社である株式会社ロッテ・佃孝之社長、日本歯科医師会・柳川忠廣副会長、日本医師会・今村聡副会長の三者による鼎談を行いました。

医科歯科連携の現状と課題

今村(以下、今):歯や口腔の健康と全身の健康が大きく関連していることは、少しずつ知られてきているように感じます。今後は、ますます医科と歯科の連携に注目が集まるようになるでしょう。

柳川(以下、柳):近年では、歯周病の治療によって糖尿病の血糖コントロールがしやすくなることや、がん治療の前後の口腔ケアによって在院日数を短くできることなど、様々なエビデンスも出てきており、口腔機能を維持することや口腔内を清潔に保つことの重要性が医科の先生方にも理解していただけるようになってきたと感じています。この十数年間、病院内の歯科医療は減少傾向にあったのですが、近年は増えている地域も出てきました。

:一般の方や医学生には、歯科医師は口と歯だけを診るのが仕事で、医師が診る全身の疾患とは関係がないと思われているかもしれません。しかし、一人の患者さんを診るとき、歯は歯、身体は身体と切り離して捉えることはできません。歯や口腔に関する疾患は全身の疾患に大きな影響を及ぼしているし、その逆も同様です。医学部の教育課程では、歯や口腔の機能と、それらの全身との関わりについて学ぶ機会がほとんどないのが課題です。今後は、例えば在宅療養中の患者さんにとって、食べることがどのように生活に影響しているのか…というようなことを学ぶ機会が必要ですね。

:歯学部でも、在宅医療について座学で学ぶことはありますが、実際の患者さんを前にして学ぶような機会は充分ではないですね。

:医師は患者さんの状態を総合的に診るなかで、歯や口腔に関しておかしいなと思ったら、専門的な知識や技術を持っている歯科医師に積極的にコンサルトしていく必要がありますよね。今後、医師と歯科医師の相互の連携を深めていくためにも、医師会と歯科医師会が協力してネットワークづくりを進めていきたいと考えています。今後は予防や健康づくりの観点でも、医科と歯科の連携が重要になりますね。

:はい。歯科では近年「オーラルフレイル」の予防に力を入れています。オーラルフレイルの症状として、滑舌が悪くなる、軽いむせが起こる、食べこぼす、好んで食べる食品の数が減る、というものがあります。これらが進行しないようにすることで、その後に起こりうる全身の虚弱を予防できると考えられるのです。またオーラルフレイルの予防は、おしゃべりや外見にも関連するので、高齢者のメンタルヘルスの改善にもつながると考えられています。

:フレイル対策は、私も医師として大きな課題だと考えています。というのも、生活習慣病予防のために「メタボリックシンドローム」という言葉が有名になった結果、痩せることばかりが重要視され、逆に高齢者の全身の虚弱が問題になっているのです。栄養状態を良くし、全身の虚弱を予防するためにも、オーラルフレイルについて知ってもらうことは重要です。今後は、医科と歯科の教育面での連携や、国民に向けたプロモーションが必要になるでしょう。

:健康に関するプロモーションとしては、当社でも「8020運動」を長年支援させていただいてきました。今後も、オーラルフレイルなどの分野で、新たな健康づくり運動に関わっていければ嬉しいです。

 

シリーズ連載
医科歯科連携がひらく、これからの「健康」④
これからの医科歯科連携を考える(後編)

産業界における健康づくりの取り組み


:現在もロッテさんは、歯の健康に関する様々な取り組みをされていますよね。

:はい。ロッテは、ガムのトップメーカーとして、歯を健康に保つことの大切さをずっと社会に訴えかけてきました。研究開発を重ね、歯ぐきを健康に保つガムなども商品化しています。しかし、ガムを噛む人は残念ながら減っています。その結果、噛む力を維持する機会も減ってきているのではないかという危惧を抱いています。そこで私たちは、噛むことが健康維持のために大事な要素だということを理解していただくための取り組みを行っています。

:どのような取り組みなのでしょうか?

:一例として、大手電子機器メーカーと共同で、噛む回数を計測するデバイスを開発しています。噛んだ回数をセンサーで計測して、スマートフォンにデータを送ることができます。これを使用して噛む回数を計測し、健康維持のためにどのくらい噛む必要があるかという指標を打ち出すことができれば、噛むことに対する意識がより高まるのではないかと考えています。

:非常に面白い取り組みだと思います。計測が可能になることで、噛むことが健康にどう影響するのか、様々なエビデンスを出せる可能性が出てきますね。

:噛む回数を自身で計測できるとは画期的ですね。歯科領域にも今までなかった発想で、とても面白いと思います。

:私たちは菓子メーカーとして、普段から美味しく食べられるものが、健康の維持増進につながるような形が望ましいと考えています。食べて楽しい、感動できるという基軸を維持した上で、なおかつ社会の健康に役立つようなあり方を目指しています。

学生時代からの多職種連携の推進


:ロッテさんの開発されている食品やデバイスを使用して、医学部や歯学部など様々な医療系学部の学生が、地域の健康づくりについて考える機会を設けたら面白いのではないでしょうか。地域の方々も、学生が健康づくりに関わってくれるとなれば歓迎してくださるでしょうし、学生の皆さんにとってもやりがいになるでしょう。

:とても面白いと思います。若い世代の学生さんならではの新鮮な発想で考えてもらえたら、多くのアイディアが出るでしょうね。

:様々な医療系職種を目指す学生たちがディスカッションする機会になるのも良いですね。実際に現場に出たら、患者さんの生活を良くするために、看護師や歯科衛生士・管理栄養士・言語聴覚士・薬剤師などといった多くの職種と意見を出し合って協働することになりますからね。

:そうですね。学生のうちから医科・歯科に限らず医療系の学生が交流する機会があれば、連携のハードルも下がるでしょう。現在、日本医師会では、定期的に学生に集まってもらい、学生同士が交流したり、医師会役員と意見交換をしたりする機会を設けていますので、医科と歯科の連携についても、そのような機会が作れるといいかもしれません。

:歯科医師会もこれから、全国29の歯学部・歯科大学の学生へ働きかける機会を増やしていく予定です。歯科に留まらず、ぜひ他学部の学生とも交流できるような場を作っていきたいですね。

:学生たちの様々な活動を通じて、健康づくりやプロモーションといった分野でも、さらに医科と歯科の連携が進んでいくことを期待したいと思います。本日はありがとうございました。

koukoku1今回お話を伺った先生

今村 聡(写真左)
日本医師会副会長

佃 孝之(写真中央)
株式会社ロッテ代表取締役社長

柳川 忠廣(写真右)
日本歯科医師会副会長

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