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医の倫理の基礎知識 2018年版
【医師と患者】B-4.認知症患者の場合のインフォームド・コンセント

丸山 英二(慶應義塾大学大学院健康マネジメント研究科特任教授)


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 アルツハイマー型認知症などで判断能力が衰えた患者が病院へ入院するとき、身体疾患の治療が目的の場合には家族のインフォームド・コンセントが必要とされるが、精神疾患の治療が目的であれば、精神保健福祉法の要件を満たす必要がある。同法は精神科病院への入院について、①任意入院、②措置入院、③緊急措置入院、④応急入院、⑤医療保護入院の5種類のものを用意している。このうち、①は本人の判断能力が衰えている時に用いることはできず、②、③は、「入院させなければその精神障害のために自身を傷つけ又は他人に害を及ぼすおそれがある」(同法29条)者またはその疑いのある者が対象の入院形態であり、また、③、④は最長72時間に限られるものであるため、いずれも認知症患者への適用は多くない。そのため、認知症患者の精神科病院への入院は、ほとんどが⑤の医療保護入院の形態を取る。医療保護入院は、「[精神保健]指定医による診察の結果、精神障害者であり、かつ、医療及び保護のため入院の必要」(同法33条)があるが、精神障害のために任意入院ができない者について、その家族等の同意がある場合に用いることができる。家族の同意は、本人の配偶者、親権者、扶養義務者、後見人、保佐人のうちの1人から得ることで足り、それらの者の間に優先順位はない。

 認知症患者が終末期を迎えた場合の医療方針の決定に関しては、「人生の最終段階における医療・ケアの決定プロセスに関するガイドライン」(厚生労働省、2007年5月、2018年3月最終改訂)において「家族等が本人の意思を推定できる場合には、その推定意思を尊重し、本人にとっての最善の方針をとる」、「家族等が本人の意思を推定できない場合には、本人にとって何が最善であるかについて、本人に代わる者として家族等と十分に話し合い、本人にとっての最善の治療方針をとる」、「家族がいない場合及び家族が判断を医療・ケアチームに委ねる場合には、患者にとっての最善の治療方針をとる」ことが基本であるとされている。また、同ガイドライン解説編は、家族について、「家族等とは、今後、単身世帯が増えることも想定し、本人が信頼を寄せ、人生の最終段階の本人を支える存在であるという趣旨ですから、法的な意味での親族関係のみを意味せず、より広い範囲の人(親しい友人等)を含みますし、複数人存在することも考えられます」としている。そのような広い範囲の人を想定することは、本人の意思・希望を尊重するために望ましいことである。もっとも、本人の意思・希望であっても、それが現在の医療水準にから外れる場合には、必ずしも応じる必要はないであろう。

 認知症患者で「インフォームド・コンセントを与える能力を欠く」者(以下、IC能力を欠く者)を対象とする医学研究を実施するに際しては、「人を対象とする医学系研究に関する倫理指針」(文部科学省・厚生労働省、2017年2月最終改訂)を遵守することが必要になる。同指針のガイダンスは、認知症等の診断がなされていることのみをもって直ちにIC能力を欠く者と判断することは適当でなく、個々の対象者の状態のほか、実施される研究の内容(対象者への負担並びに予測されるリスクおよび利益の有無、内容等)も踏まえて判断する必要があると指摘する。そのような個別具体的な検討をしたうえで、IC能力を欠くと判断される者を対象に研究を実施する場合には、そのような者を対象者とすることが必要である理由(対象者の集団に特有の疾患に関する研究の実施など)を研究計画書に記載したうえで、代諾者からインフォームド・コンセントを受けることが必要である。

 代諾者の選定に関して同指針のガイダンスは、(対象者が未成年者の場合の親権者または未成年後見人のほか)対象者の配偶者、父母、兄弟姉妹、子・孫、祖父母、同居の親族またはそれら近親者に準ずると考えられる者、および対象者の代理人を掲げたうえで、対象者の意思・利益を代弁できると考えられる者が選定されることが望ましいとしている。また、この場合にも、本人の理解力に応じた分かりやすい言葉で説明をしたうえで、当該研究の実施について理解と了解(インフォームド・アセント)を本人から得ることが求められる。

(平成30年8月31日掲載)

目次

【医師の基本的責務】

【医師と患者】

【終末期医療】

【生殖医療】

【遺伝子をめぐる課題】

【医師とその他の医療関係者】

【医師と社会】

【人を対象とする研究】

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