医師のみなさまへ

医の倫理の基礎知識 2018年版
【医師と患者】B-12.医療広告と宣伝

石川 広己(日本医師会常任理事)


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 本稿では、医師や医療機関等からの医療広告と宣伝について述べる。製薬企業等による広告・宣伝については、本シリーズの桑島 巌「ディオバン事件-研究者と企業の倫理」等を参照されたい。

 医療広告は従来より、患者が虚偽もしくは誇大な表現に惑わされることがないよう、医療法等において、「虚偽」・「誇大」等の広告禁止事項を定めるとともに、広告可能事項を13項目に限定する規制がなされてきた。

 2017年、これまで、医療機関ウェブサイト等は、住民や患者自らが適切な医療機関を選択できる情報提供を進める観点もあり、広告と見做していなかったが、医療法が改正され、広告として規制対象とすることとなった。これは、消費者委員会が、美容医療サービスに関する消費者トラブルの相談件数の増加を受けて厚生労働大臣に対して提出した「建議」を受けてのものである。

 ただし、医療機関ウェブサイトについては、専門家である医師等による有用な健康情報の発信がなされてきたことも多く、患者による適切な治療等の選択が阻害される恐れが少ない場合には、幅広い事項を広告可能とした。これらについては、厚生労働省「医療情報の提供内容等のあり方に関する検討会」において審議がなされ、2018年6月には、医療広告ガイドラインが策定されている。また、これらの規制の実効性を高めるために、医業等に係るウェブサイトの監視体制強化事業(ネットパトロール)も、前年に引き続いて取組が強化されている。ネットパトロールでは、科学的根拠に乏しい臍帯血や免疫療法でのがん治療が問題となったこともあり、幅広い対応が求められている。

 近年、インターネットの普及により、国民が検索エンジンを用いて健康情報を探すことが増えた。その際に、「病名」ではなく、「症状」で検索されることも多く、検索エンジンは医療機関に限らず、医業類似行為を業とする者や、いわゆる「健康食品」といった情報が横断的に検索結果として示される。今回の医療機関への規制強化は、国民が非専門家による不正確な医療情報を含んだサイトに触れる機会を増してしまう恐れがあるため、日本医師会は国等に対し、縦割り行政とならないよう、医療機関以外の方面への対応を強く求めている。

 健康情報については、営利企業がウェブ上の不正確な情報をまとめたサイトを構築した上で、検索エンジン最適化を行い、誤った健康情報を氾濫させたという事案が実際に生じている。国民がインターネットを介して誤った医療情報に惑わされることのないよう、国は総合的な対策を行なうことが必要である。また、専門家である医師が医の倫理に基づいて、わかりやすい適切な情報発信を行なうことも重要である。

(平成30年8月31日掲載)

目次

【医師の基本的責務】

【医師と患者】

【終末期医療】

【生殖医療】

【遺伝子をめぐる課題】

【医師とその他の医療関係者】

【医師と社会】

【人を対象とする研究】

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