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医の倫理の基礎知識 2018年版
【医師と社会】G-6.医薬品副作用被害救済制度

鈴木 邦彦(前日本医師会常任理)


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 厚生労働省は、薬害根絶の誓いの碑を建立した8月24日を「薬害根絶の日」と定めている。薬害とは医薬品を使用した患者に重篤な健康被害が発生し、社会問題化したものをいう。「医薬品副作用被害救済制度」は、重篤な薬害事件の1つであるキノホルムによるスモン事件が契機となり創設された。医薬品の副作用による健康被害を受けた患者を迅速に救済するための、国民の生活を守るために不可欠な公的制度である。

 医薬品は、医療上必要不可欠なものとして国民の生命、健康の保持増進に大きく貢献している。しかし、医薬品は限定された条件のもとで実施される治験において、有効性と安全性のバランスを勘案して承認、製造販売されているため、適正に使用したとしても、副作用による健康被害の発生を完全になくすことはできない。

 民法では医薬品による健康被害についての賠償責任を追及することが難しく、訴訟には多大な労力と時間を必要とすることから、患者や家族等に迅速な資金的サポートを提供する観点から、医薬品副作用被害救済制度は大変重要な役割を果たしている。この制度では、入院治療が必要な程度の健康被害や障害が発生した場合や死亡した場合に、患者や遺族に対して医療費等の諸給付を行う。健康被害を受けた患者の支援を第一に考えている世界で唯一の日本独自の制度である。欧米では副作用に関する問題を裁判で解決するのが基本となっていることからも、本制度は世界の一歩先を行っている世界に誇れる制度であると言える。

 給付の対象となる健康被害は、医薬品(一般用医薬品も含まれる)を適正に使用したにもかかわらず、重篤な副作用が発生し、その結果入院が必要になったり、後遺症が残ったり、死亡した場合である。ただし、救済の対象から除外される医薬品や救済の対象とならない場合もある。対象除外医薬品としてはがんその他特殊疾病に使用されることが目的とされている医薬品であって、厚生労働大臣の指定するもの、例えば抗悪性腫瘍薬、免疫抑制剤などが含まれる。また、人体に直接使用されないものや、薬理作用のないもの等副作用発現の可能性が考えられない医薬品、例えば動物医薬品、体外診断用医薬品なども対象除外医薬品である。

副作用原因医薬品 薬効中分類訳

医療機器総合機構【医療従事者向け】医薬品副作用被害救済制度の解説冊子
https://www.pmda.go.jp/files/000226353.pdfより作成。
(参考)請求書類はPMDAホームページからダウンロードできる。
https://www.pmda.go.jp/kenkouhigai/fukusayo_dl/

 医療費等給付を受けるためには、まず健康被害を受けた本人または遺族等が、請求書とともに給付の可否決定のための医学的薬学的判断に必要な資料(診断書等)を医薬品医療機器総合機構(PMDA)に提出する必要がある。給付を請求する者が、発現した症状及び経過と、それが医薬品を使用したことによるものだという関係性を証明しなければならない。その際には、原因として疑われる医薬品を処方した医師や副作用の治療を担当した医師の協力が不可欠となっている。PMDAは受け付けた請求を、その健康被害が医薬品の副作用によるものかどうか、また、医薬品が適正に使用されていたかどうかなどを医学的薬学的に判断し、最終的に厚生労働大臣が給付の決定を行う。

 なお、特に市販直後の新薬は、限定的な条件のもとに実施された臨床試験の使用成績のデータしかなく、副作用等の安全性情報は不十分である。そのため、その新薬を使って治療を行おうとする医師にとっても、治療を受ける患者にとっても不安が残る。しかし、医薬品副作用被害救済制度による副作用の健康被害に対する迅速な救済措置があることで、その不安を軽減でき、新薬の使用を促進して、国民がより良い最先端の医療を受けられる社会の実現につながると考えられる。

 平成24~28年度に医薬品副作用被害救済制度によって医療費等の支給対象となった例は支給可否の決定が行われたもののうち82%で、総支給額は23億円である。支給の対象となった、副作用被害が発生した医薬品を薬効で分類すると図1のような割合となっている。様々な薬効の医薬品が副作用被害救済支給の原因になっていることがわかる。

(平成30年8月31日掲載)

目次

【医師の基本的責務】

【医師と患者】

【終末期医療】

【生殖医療】

【遺伝子をめぐる課題】

【医師とその他の医療関係者】

【医師と社会】

【人を対象とする研究】

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