チーム医療のパートナー
連携口腔ケアサポートチーム
これから医師になる皆さんは、どの医療現場で働いても、チーム医療を担う一員となるでしょう。本連載では、様々なチームで働く医療職をシリーズで紹介しています。今回は、広島大学病院連携口腔ケアサポートチームについて、広島大学病院口腔総合診療科診療講師で歯科医師の西裕美先生にお話を伺いました。
全身に影響を及ぼす歯周病
――広島大学病院連携口腔ケアサポートチームとは、どのようなチームなのですか?
西:医科の患者さんへの口腔ケアや口腔内治療の支援を目的とし、2012年にチームが結成されました。メンバーは、歯科医師・歯科衛生士を中心に、感染症関連の医師など、様々な専門職で構成されています。それぞれの科の医師からの依頼を受けて、手術を控えている患者さんや、がんの化学療法を受けている患者さんなどに対し、口腔ケアを行います。
――医科で治療中の患者さんに、どうして口腔ケアが必要なのでしょうか?
西:口腔内の歯垢は、便と同等の菌数と言われています。例えば、全身麻酔の手術では気管挿管の際に口腔内の菌が肺に入りやすく、肺炎などの合併症を起こす危険性があります。そのため、術前に歯垢や歯石などの菌の塊を取り除き、菌の数を物理的に少なくすることは、合併症の予防に非常に効果があるのです。
また、成人の8割がなっていると言われている歯周病は、歯ブラシを使うだけでも歯茎から出血が起こるため、出血した箇所から口腔内の菌が血液中に侵入してしまいます。健康なときであれば問題ありませんが、術後や抗がん剤治療中などで免疫力が低下しているときには、敗血症を起こしたり発熱の原因になったりするのです。
――具体的な管理方法・治療内容について教えてください。
西:歯科外来に来ることができる患者さんには来ていただき、それが難しい方にはこちらが病室を訪問します。歯周病の状態が悪化して膿が出ていたり、虫歯があったりすると、そこに大量の菌が溜まってしまいます。そういう感染源となるものは徹底的に治療し、歯ブラシなどによる口腔ケアと併せて衛生管理をします。
歯科衛生士さんには、専用の器具でプラークを取り除くことや、歯茎の下の方まで入り込んでいる歯石を取り除くことなどをお任せしています。腫れてしまった歯茎の下など、歯科医師が見落としがちなところにある歯石も細かく除去してくださるため、歯茎ケアに関しては特に、歯科衛生士さんの専門性を頼りにしています。
――毎月、どれくらいの件数の依頼があるのですか?
西:チームを立ち上げた当初は1か月に4~5人でしたが、今は300人前後の患者さんを診ています。


医科歯科連携の意義
――連携口腔ケアサポートチームが立ち上がるまでの経緯についてお聞かせください。
西:感染症部門の先生から、院内の感染症対策の一環として、口腔内の細菌を原因とする肺炎などの感染症予防のため、歯科と連携して口腔衛生管理を行いたいという呼びかけがあり、それをきっかけにチームが立ち上がりました。
結成当時は今ほど口腔ケアがメジャーではなかったため、歯科医師が各医局に赴き、口腔内の細菌が様々なトラブルの原因となることをプレゼンし、入院した患者さんは必ず歯科に紹介してもらうようお願いして回りました。とはいえ、いきなり患者さんが増えると歯科側の受け入れ体制も整わないため、まずは感染性の合併症を起こしやすい外科からプレゼンを行い、その後、少しずつ他の科にも広げていきました。
――当初は医科側も、どういう口腔内の異常のときに歯科にお願いすべきかが不明瞭だったのではないかと思います。医科にはどのようにプレゼンを行ったのですか?
西:口内が痛いなど患者さんからの訴えがあるときはもちろん、具体的な症例や症状を提示し、発症が認められたら紹介してくださいとお伝えしました。また、手術前の患者さんと抗がん剤治療中の患者さんに関しては、口腔内の症状の有無にかかわらず、全員紹介してほしいとお願いしました。
――医科の先生や看護師さんと関わるなかで、工夫を行ったことはありますか?
西:医科の先生や看護師さんは血液検査などの数値で患者さんの状態を判断しますが、歯科は独自の検査・評価方法で行っており、専門外の人には理解しにくい表記になっています。そこで誰にでもわかるように、口腔内の感染リスクの高さを数値で表現できるようにしました。
口腔ケアの成果と今後
――これまで口腔ケアを続けたことで、どのような成果が得られましたか?
西:この10年で口腔ケアの重要性が医科の中でも広まりました。以前は全職員に向けて、口腔ケアに関する勉強会を定期的に行っていましたが、浸透した今ではその必要がなくなりました。
また、口腔ケアが様々な病気の発症を防ぐことや、予後の安定に有効であることが歯科や医科の研究で実証されています。例えば当院でも、心臓血管外科で行った手術のうち、術前に歯科が介入した群としていない群では、前者の患者さんのほうが術後の炎症マーカーが速やかに下がるという報告を行っています。また、脳出血や脳梗塞の入院患者さんのデータを700名ほど解析したところ、ある特定の歯周病菌が多い方は予後が良くないという結果が出ました。
――最後に、これから医師になる医学生へのメッセージをお願いします。
西:口も体の一部であり、大切であるということを認識していただけたらと思います。クリティカルパスに載っているから歯科に紹介するといった流れ作業のような感覚ではなく、口腔ケアの重要性を認識したうえで、必要に応じて個々の患者さんを紹介してもらえると嬉しいです。
口腔ケアは想定外の成果も出せており、医科歯科連携は未知の発見が期待できる分野でもあります。興味を持った方はぜひ、歯科に話を聴きに来てみてください。

※取材:2022年7月
※取材対象者の所属は取材時のものです。



- No.44 2023.01
- No.43 2022.10
- No.42 2022.07
- No.41 2022.04
- No.40 2022.01
- No.39 2021.10
- No.38 2021.07
- No.37 2021.04
- No.36 2021.01
- No.35 2020.10
- No.34 2020.07
- No.33 2020.04
- No.32 2020.01
- No.31 2019.10
- No.30 2019.07
- No.29 2019.04
- No.28 2019.01
- No.27 2018.10
- No.26 2018.07
- No.25 2018.04
- No.24 2018.01
- No.23 2017.10
- No.22 2017.07
- No.21 2017.04
- No.20 2017.01
- No.19 2016.10
- No.18 2016.07
- No.17 2016.04
- No.16 2016.01
- No.15 2015.10
- No.14 2015.07
- No.13 2015.04
- No.12 2015.01
- No.11 2014.10
- No.10 2014.07
- No.9 2014.04
- No.8 2014.01
- No.7 2013.10
- No.6 2013.07
- No.5 2013.04
- No.4 2013.01
- No.3 2012.10
- No.2 2012.07
- No.1 2012.04

- 医師への軌跡:三木 淳先生
- Information:Autumn, 2022
- 日本医師会の取り組み:新会長インタビュー
- 特集:シリーズ 臨床研修後のキャリアI 10年目以降の中堅医師の生き方
- 特集:医師のキャリアのターニングポイント
- 特集:XX年目のカルテ 脳神経内科:中嶋 秀樹医師
- 特集:XX年目のカルテ 放射線治療科:永井 愛子医師
- 特集:XX年目のカルテ 小児心臓血管外科:原田 雄章医師
- 特集:XX年目のカルテ 公衆衛生医師:高橋 千香医師
- チーム医療のパートナー:連携口腔ケアサポートチーム
- Blue Ocean:茨城県|花澤 碧先生(筑波学園病院)
- 日本医学会 120年のあゆみ
- 医師の働き方を考える:長崎大学理事 伊東 昌子先生
- 日本医師会の取り組み:医師の多様な働き方を支えるハンドブック
- 授業探訪 医学部の授業を見てみよう!:愛媛大学「保健所実習」
- 同世代のリアリティー:ブライダル業界 編
- 日本医科学生総合体育大会:東医体
- 日本医科学生総合体育大会:西医体
- グローバルに活躍する若手医師たち:日本医師会の若手医師支援
- 医学生の交流ひろば:米国内科学会Student Committee
- 医学生の交流ひろば:Team Medics
- 医学生の交流ひろば:医学生・医師が答えるみんなの疑問 Q&A
- 医学生の交流ひろば:医学生座談会~再受験生・編入生のこれまでとこれから~
- FACE to FACE:福永 ゆりか×大神 絵理華