
case study 脳梗塞の場合(前編)
事例1 58歳男性、会社員
自宅で飲酒後に入浴し、リビングで2時間ほどうたた寝をして起きたところ(午後10時半)、右半身に脱力感を覚え、呂律が回らなくなっていることに気づいた。しばらく様子をみたが症状が改善しないため、家族が救急車を要請し、大学病院に救急搬送(午前1時)された。
救急外来では頭部CTおよび血液検査を実施。頭部CTから、左側頭部に梗塞を認める。
朝になり、再度頭部CT検査を実施したうえで、神経内科に引き継がれた。神経内科の指示のもと、MRIの撮影、抗凝固薬の投与、脳保護剤の投与などが行われた。入院翌日から、ベッドサイドでのリハビリを開始。入院期間は14日間だった。

お話を聞いた人
厚生労働省 保険局医療課
中谷 祐貴子先生
質問した学生
滋賀医科大学5年
川崎 翠
質問した学生
滋賀医科大学4年
三輪 祐果
中谷先生:本症例では、患者は診断群分類を用いた包括支払方式(DPC/PDPS)対象病院に搬送されたと仮定して考えましょう。DPC/PDPSでは、主要な傷病名と、実施した主な手術・処置やその傷病の重症度などによって、細かく「診断群分類コード」が決められています。包括部分の診療報酬は、このコードで規定された1日あたりの点数に、入院日数と医療機関別係数をかけることで算出します。
川崎:今回の事例の主要な傷病名は「脳梗塞」ですね。まず、発症日数が3日目以内か4日目以降か、またJCSが10未満か10以上か、というところで大きくグループ分けをします。今回は、「発症3日目以内、かつ、JCS10未満」です。搬送当日までは全く症状がなかったため、発症前Rankin scale*は0。副傷病もなかったと考えます。
三輪:行った治療は、脳保護剤であるエダラボンの投与と、ベッドサイドでのリハビリです。この場合の傷病コードでは、入院期間8日目までは1日あたり3,091点を、9日目から17日目までは1日あたり2,329点で計算することになります。
川崎:あとは、入院中のリハビリなどを、出来高評価で点数を算出し、合算すればいいんですね!

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case study 脳梗塞の場合(後編)
病床の機能で診療報酬は違う
診療報酬を計算しようとしたとき、まず前提として考えなければならないことは、病床の機能についてです。
医学生の皆さんの多くは、医師になったらまずは大学病院や地方の中核病院などの急性期を担う病院(以下、急性期病院)で勤務することになるでしょう。急性期病院の病床は治療を目的とした場であり、多くの患者さんは治療が終わったら退院・転院することになります。
退院しても、そのまま自宅や施設などの生活の場に帰れるとは限りません。すぐには自力での生活が難しい場合や、リハビリに期間を要する場合などは、回復期リハビリテーション病棟や地域包括ケア病棟の病床を経由することもあります。これらの病床は社会復帰を目的とした場であり、急性期と在宅をつなぐ場ともいえます。
そしてもう一つ、療養病棟と呼ばれる病床があります。ここは、慢性期の患者さんや慢性疾患のある患者さんなど、継続的に医療的ケアを受ける必要のある患者さんのための場として設けられています。
このように、医療機関における病床は、大きく三つの機能に分かれています。そして、それぞれの機能に応じて、医療従事者の数や病棟の設備など、医療資源の配置が異なります。そのため、病床ごとに適用される診療報酬の体系も変わってきます。今回の事例では、医学生の皆さんにとって身近な急性期病院を取り上げましょう。
過剰な医療を減らす仕組み
かつて、診療報酬は「出来高払い方式」という、行った医療行為の単価を積み上げていく方式のみで計算されていました。しかし、医療サービスや医薬品の過剰な提供を招き、医療費の増大のリスクがあるという観点から、国によって新たな方式が推奨されました。それが「1日あたり包括支払方式(DPC/PDPS)」です。近年では、多くの急性期病院の入院治療において、DPC/PDPSが採用されています。
DPC/PDPSでは、入院期間中に治療した疾患の中で最も医療資源を投入した一つの疾病に基づく1日あたりの定額の点数と、従来どおり出来高で評価する部分(手術や放射線治療、リハビリなど)の点数を組み合わせて診療報酬を計算します。定額の点数部分は、「診断群分類」という区分ごとに、入院期間に応じて定められており、入院期間が長くなれば長くなるほど点数が下がっていく仕組みになっています。
DPC/PDPSの対象となっている医療機関では、検査や治療をいくら行っても医療機関が受け取る報酬の総額は一定になるため、提供する医療サービスは必要最低限のものになります。また、入院期間が長くなると点数が下がっていくため、できるだけ入院期間を短くしようとする力も働きます。DPC/PDPSの導入によって、医療費の削減と、患者さんの医療費負担の削減の双方が同時に実現できるのです。



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