看護師(緩和ケア・急性期)【前編】(1)

これから医師になる皆さんは、どの医療現場で働いても、チーム医療のパートナーとして看護師と関わることになるでしょう。本連載では、22号より、様々なチームで働く看護師の仕事をシリーズで紹介しています。今回は、東京逓信病院の皮膚・排泄ケア認定看護師、宮本乃ぞみさんと秡川恵子さんにお話を伺いました。

 認定看護師制度は日本看護協会によって1995年に始められ、現在は21分野が定められています。「皮膚・排泄ケア(Wound・Ostomy・Continence, WOC)」は、最も早く認定看護師の養成が始まった分野の一つです。

 今回は、皮膚・排泄ケア認定看護師(WOCナース)の仕事を、前編・後編に分けてお伝えします。前編は、WOCナースの資格と業務内容を取り上げます。後編は、認定看護師としての業務内容に限らず、皮膚・排泄ケアの重要性や、患者との関わりについて取り上げます。

皮膚・排泄ケアとは

先生

――初めに、「皮膚・排泄ケア」とは何を意味するのか、簡単に教えていただけますか。

秡川(以下、秡):はい。まず、WOCナースの歴史からお話しします。かつて、WOCナースの前身として、ETナースという資格がありました。ETナースはストーマ*1保有者を専門的にケアする看護師のことです。

ストーマの周囲の皮膚は、排泄物や消化液によって皮膚障害が生じることが多く、ETナースは必然的に、高い皮膚ケア技術を身につけることになりました。その知見は褥瘡などの創傷ケアにも応用できることがわかってきて、ETナースの業務内容は広がりました。その結果「創傷・オストミー・失禁看護」という専門分野が確立し、一般にもわかりやすい「皮膚・排泄ケア」という呼称で定着しました。

――お二人が皮膚・排泄ケア認定看護師になろうと思ったきっかけを教えてください。

宮本(以下、宮):私の場合、実際にETナースによるケアを見たことがきっかけです。私は以前泌尿器科の病棟で、ストーマを造設した患者さんのケアをすることがあったのですが、私が関わると漏れやかぶれが生じてしまうのに、ETナースの資格を持つ先輩がケアをすると漏れず、患者さんも安心して過ごされていて。看護師のケア一つで、患者さんの生活が大きく変わると実感し、「先輩のような技術を提供できるようになりたい」と考えるようになりました。

:私も、宮本さんと同じような理由で資格取得を目指しました。ストーマは、造設の時こそ医師が中心的に関わりますが、造設後のケアは看護師の判断に委ねられることが多くなります。看護師の判断が、患者さんのその後の人生に大きく影響を与えることを痛感したんです。

また、ちょうどその頃、私は看護師という職種の専門性について悩んでいました。看護師の一つひとつの業務は、どうしても補助的だとか、専門性がなくてもできそうに見られがちで、医師からも患者さんからも、単なるお手伝いさんのように思われることもありました。そのたびに「私たちはれっきとした専門職なのに」と思う一方、看護師の専門性を、他職種や患者さんに端的に説明するのは難しかった。そんな私にとって、「科学的根拠に基づいて質の高いケアを提供する」という認定看護師の資格は、とても魅力的でした。

 

 

看護師(皮膚・排泄ケア)【前編】(2)

他職種との関わり

――認定看護師の養成課程では、どんなことを学ぶのですか?

:カリキュラムは講義と演習に分かれており、講義では、WOC看護に必要な基礎知識を学びます。皮膚や消化器・泌尿器の解剖生理、排泄のメカニズムに始まり、失禁やストーマに関連する疾病や創傷の病態生理・治癒過程・ケア方法、ストーマ造設の術式も一通り学びます。

:演習の時間では、瘻孔*2のケアや、装具の貼り方などの技術を身につけていきます。また、看護研究や症例発表の方法も学びます。皮膚・排泄ケアに関する海外文献を翻訳し、ディスカッションする時間もありました。

――印象に残っている授業はありますか?

:他者とアサーティブに関わるためのグループワークの時間です。自分の対人スキルの癖や欠点を徹底的に見つめ直し、他者との関わり方について考えていくんです。そうした作業を通じて、自分が人間的に一歩成長できた、と実感できました。

:認定看護師は自分一人の技術を磨けばいいのではなく、スタッフを育成する役割も担います。また、より良い多職種連携のために、各職種の専門性を認めつつ、自身も専門職として対等に対話することが必要です。ケアに関する知識や技術は、現場で経験を積むなかで向上する面もあります。でもこうした対人技術は、普段から意識していないと身につきません。資格を取ったからできるようになる、というわけではなく、資格を取る過程を通じて、そうした意識づけがなされていくことが大事なのかな、と思います。

――他職種と関わるのは、どのようなときですか?

:例えば褥瘡ケアでは、医師・看護師と共に、薬剤師や管理栄養士、必要に応じてリハビリ科の医師が患者さんを回診します。回診で集める情報は、職種によって全く違いますから、カンファレンスでは活発に意見交換しながら、より良いケアを全員で考えます。

:また、褥瘡はあらゆる科の患者さんに発生しうるけれど、全ての医師が褥瘡に詳しいわけではありません。褥瘡が見逃されている場合、私たちから主治医に伝えることも大切です。褥瘡というと、深い傷になった状態を思い浮かべる人が多いかもしれませんが、病院で発見される褥瘡は、皮膚が少し赤くなっただけのごく軽いものも多いです。でも放置すれば確実に悪化しますし、退院後に感染を起こして再入院につながる恐れもありますから、早期発見して処置することが重要なんです。

――認定看護師の資格を取得して、何か変化はありましたか?

:やはり、他職種への関わり方は変わりました。例えば以前は、医師に対して「こうした方がいいはずなのに、先生は何でこんな指示を出すんだろう」と思うことがよくありました。でも、看護師と医師とでは、患者さんをみる視点も頻度も違いますから、考え方が異なるのは当たり前ですよね。資格を取ってからは、「なぜ先生はそう考えたのか」と相手の立場に立って考えられるようになりました。それでも医師と意見が異なる場合は、感情的に反発するのではなく、科学的根拠をもとに提案するように心がけています。

:また、病棟や病院全体のケア向上のために、調べものをしたりデータを分析したりする時間が増えたと感じます。

:例えば私は今、当院の専従の褥瘡管理者として、当院での褥瘡の発生件数や発生状況について分析、改善案をチームで考えて実践・評価するというPDCAサイクルを繰り返しています。

*1ストーマ…手術などによって腹壁に作られた、便や尿の排泄口。患者自身の腸や尿管を腹部の外に出して作られ、ストーマ用の装具を貼って、排泄物を受け止める。

*2瘻孔…管腔臓器と体外、または管腔臓器間に生じた管状の穴のこと。

榎本 英子さん宮本 乃ぞみさん(写真右)
東京逓信病院
皮膚・排泄ケア認定看護師

秡川 恵子さん(写真左)
東京逓信病院
皮膚・排泄ケア認定看護師