バランスの良い食事を用意するために

3人はクリニックを出て、1軒目の訪問診療先である町田家へ向かいます。四堂先生は、町田夫妻がインスタント食品に頼った食生活を送っていることを知り、食事内容を改善する方法を提案します。

 

 

町田 スミ子 75歳
夫の定年後は、二人で散歩を楽しんでいたが、脚を悪くして以来、何かとふさぎ込みがちになってしまった。

町田 郁夫 81歳
妻の入院を機に、慣れない家事に奮闘する毎日。妻の笑顔が減ったのが心配で、何とか元気づけたいと思っている。

適切な食事を準備するために

町田家は夫婦二人暮らし。長年、妻のスミ子さんが家事を一手に引き受けていましたが、脚を骨折してから、買い物や台所仕事が難しくなってしまいました。夫の郁夫さんは、家事の経験はほとんどありません。そのため、栄養バランスを考えて料理を作ることができず、インスタント食品に頼りがちですが、あまり問題意識を感じていない様子です。

このような問題は、高齢の単身世帯や、主な家事の担い手が病気やけがで動けなくなった家庭などで生じがちです。特に、年金で生活していて経済的に余裕がない、栄養についての知識も十分ではなく、適切な食事を用意する意欲も湧かない…といった場合、野菜や肉・魚といった食材を買うことができず、安価で手軽にお腹が満たされる炭水化物などに偏った食事をしてしまうことがあります。

町田さん夫妻に、「バランスの良い食事を摂ってください」と言葉で指導するのは簡単です。しかし、それだけで本当に栄養状態を改善できるでしょうか。家事経験が少ない人にも理解できるような栄養指導、限られた費用でもバランスの良い食事ができるようなメニューの提案、ときにはヘルパーの助けを借りて、負担を軽減することなど、その家庭の事情や生活状況をよく考慮し、きめ細やかな支援を行っていく必要があるのです。

 

No.28