日本医師会の取り組み 
コロナ禍を受け地域医療の今後を考える

全日本病院協会の会長も兼任する猪口雄二日本医師会副会長に、地域医療構想の概要と今後の日本の地域医療について聴きました。

地域医療構想とは

――地域医療構想とは何でしょうか?

猪口(以下、猪):すでに人口が減りはじめている日本では、将来的に高齢化もますます進んでいくでしょう。地域医療構想とは、そうした将来に備えて、二次医療圏を基本に全国で341の「構想区域」を設定し、効率的な医療提供体制を実現するための取り組みであり、2014年に制度化されました。地域医療構想では、団塊の世代が75歳以上となる2025年を目安に、構想区域ごとの医療需要と病床の必要量を割り出しています。もともと医療計画の中で基準病床数が定められていましたが、地域医療構想ではさらに高度急性期・急性期・回復期・慢性期の四つの医療機能に分けて推計することで、地域ごとに病床の機能分化と連携を進めることを目的としています。

ただ、地域によって人口規模や人口構成など、事情がまったく異なります。当初定めた病床の必要量が各地域の実状に合っているかどうかは2025年になってみないとわかりません。一つの方式を全国に適用するのではなく、地域ごとに最適化を図る必要があるのです。現在、構想区域ごとに設置されている「地域医療構想調整会議」において、そうした最適化のための話し合いを行っています。

地域医療の今後

――新型コロナウイルス感染症は、病院経営にも様々な影響を及ぼしました。

:日本は経済が低成長になって以来、医療費の引き締め策が行われており、病院の経営はギリギリのところで成り立っていました。基本的に病院の利益は1%台であり、急性期病院では85%程度、回復期では95%ほど病床が利用されなければ、経営は成り立ちません。しかし新型コロナウイルス感染症の流行で、受診控えにより患者数が減少しました。特に大都市圏では顕著で、東京では2020年5月に入院患者が17~18%、外来は20%以上減り、全く収支が合わないという事態が生じました。多くの病院が、福祉医療機構やその他政府保証の貸付制度などにより、何とか凌いでいる状態だと思います。

――新型コロナウイルス感染症の流行は、地域医療構想にも影響を与えるのでしょうか?

:例えば現在は、多くの病院で少しずつ新型コロナウイルス感染症の患者さんを受け入れています。しかし機能分化の観点から言えば、新型コロナウイルス感染症診療を重点的に担う医療機関を地域で位置づけ、他の病院は一般診療を主に担うという役割分担があるべき姿です。ベッドが空いている病院があれば、病床数を削減するのではなく、新興・再興感染症に対応するための休眠病床として確保しておくという方策も考えられます。もしそのような病院を各地に作るとなれば、地域医療構想と関係してくるかもしれませんが、まだこれから議論しなければ何とも言えません。

少なくとも今後は、新興・再興感染症対策を医療計画の中でどう位置づけるかを考えていく必要があるでしょう。今回の事態で社会的・経済的に大きな打撃を受けた日本で、地域医療を持続させ、ますます充実させていくためには、社会保障のシステム自体も変えていく必要があるのではないかと思います。

地域医療構想のワーキンググループは、厚生労働省の医政局が事務局を務め、民間や公立の様々な病院団体などの代表が委員となり、自治体病院を所管する総務省も出席しています。私は日本医師会の副会長として、多様な意見をまとめていくことも役割だと思っています。非常に責任の重い仕事ですが、日本の医療提供体制を守るために尽力していく所存です。

 

私と医師会活動
医師として、病院経営者として、地域医療に貢献する

32歳で父の病院を継いで

――猪口副会長は32歳の若さで病院経営に携わるようになり、現在は日本医師会の副会長と兼任で、全日本病院協会(以下、全日病)の会長も務めています。まずは、病院経営に携わるようになった経緯について聴かせてください。

:私の父が病院を経営しており、私は2代目です。ただ、病院は同じく医師である兄が継ぐものと思っており、病院経営に携わることになるとは思っていませんでした。大学6年生のときに父が亡くなり、私が研修医になる頃には病院の経営が傾き始めていました。兄と相談したところ、兄は大学病院における医師を望んだので、私が理事長・院長になりました。以後34年間、病院経営に携わっています。

跡を継いだ直後は、大学時代の同級生や、母校に紹介してもらった医師たちに自分の病院に勤めてもらい、何とか運営していました。バブル経済も経験するなど色々と大変なこともありましたが、自分の意思で病院を動かせるやりがいもありました。

――病院経営者と医師、どちらのアイデンティティに重きを置いていますか?

:それは私にとって永遠のテーマかもしれません。若いときは勤務医として、病院に住み込むようにして働いていました。途中から病院経営者となったため、高い専門性を身につけているわけではないのですが、医師として一般診療や救急医療、リハビリテーションに尽力してきました。私も高齢になり、最近は救急医療には携わっていませんが、今もリハビリにはしっかり取り組んでいるつもりです。

――例えば欧米では経営学の専門家が病院経営に携わるケースがほとんどです。医師が病院経営に携わることのメリットとデメリットについてどのように考えますか?

:利益ばかり追求するのではなく、医療の質を大切にしながら経営ができるという点は良いことだと思いますが、理事長や院長に就任して初めて経営を勉強するという点は、今後の課題になってくるのではないかと思います。というのも、今は医師として一人前になるために、私たちが医師になった頃よりはるかに膨大な量の勉強をしなければならないからです。40歳手前で、やっと医師として一人前になり、さらにそこから病院経営についても一から学ぶとなると、かなり負担が大きいのではないでしょうか。

――猪口副会長は、これまで中央社会保険医療協議会や社会保障審議会医療部会の委員としても活動しています。

:父の跡を継いですぐ、病院経営について学ぶため、同世代の病院経営者が集まる勉強会などに顔を出すようにしたのです。特に診療報酬についてはかなり勉強しました。

それがきっかけで全日病の診療報酬委員会に加入することとなり、やがてその委員長に就任しました。委員長として活動するなかで四病院団体協議会や日本病院団体協議会といった団体の診療報酬関係の仕事にも関わるようになるなど、次第に活動の範囲が広がっていったのです。

――全日病の会長を兼任しながら、日本医師会の副会長を務めることについて、抱負を聴かせてください。

:日本医師会は医師という専門職全体の集団ですが、病院は医師だけでない様々な職種から構成される組織であり、全日病は病院を代表する団体の一つです。医療を円滑に行うには、専門職としての医師と、組織としての病院の両方にアプローチする必要があります。病院に関する様々な活動を行ってきた私が、日本医師会においてもその経験を活かすことができれば、我が国の医療の発展に貢献できるのではないかと思います。

猪口 雄二
日本医師会副会長

 

No.36