薬学生がみたcommon diseaseを支えきれない薬局
人と医療の研究室Student Groupのお誘い
人と医療の研究室事務局 神戸学院大学 横山 夏季
私は医療と社会の関わりに関心のある学部生で構成される「人と医療の研究室(ひとけん)Student Group」に所属しています。ここでは、日常のできごとに関連する考察をSlack上で1日に一つ共有し、研究員からフィードバックを得るプログラムが用意されています。今回は、本プログラムを活用して私が考えたことを、グループへのお誘いにかえてご紹介します。
私は今回、COVID-19渦中で、実習中に毎日マスクを着けているためにニキビが急増したという経験から、肌、つまり皮膚の持つ意義から考察を始めました。
皮膚は一般に、①外部刺激からの保護②保湿 ③感覚・知覚④体温調節⑤ビタミンDの合成の五つの働きを持つと言われています[1]。これらのため、皮膚はその瞬間の体の健康状態を表します。走った後や緊張している時は顔が赤くなったり、逆に顔面蒼白になったりすることもありますね。
しかし、皮膚の状態(色調)は必ずしも鋭敏に全身の状態を反映するわけではありません。例えば、低血糖時には顔色がほとんど変わらないことがあります。インスリン作用不足による高血糖状態を示す糖尿病患者は、治療薬によって低血糖発作を起こす可能性があり、冷や汗、動悸などの症状ならば患者は自分で対処できる場合もあります。しかし自分で対処できない、つまり意識を失って倒れてしまったとき、周囲にいる一般の人はどのような行動をとるでしょう。
息は? AEDが必要? 救急車! 真っ先にこんな行動をとる人が多そうです。もちろん迅速な救急要請は正解です。しかし、「もしかして低血糖? ブドウ糖・飴!」とまで考えられる人はどのくらいいるでしょうか。実は、(特に高齢者や児童などの)低血糖症状に対して身近な第三者が糖分を与えることは推奨されています[2]。
日本の糖尿病有病者は約1,000万人いると推定されています[3]。しかし糖尿病という疾患について聞いたことはあっても、実際の症状や処置を知っている人はほんの一握りで、一般に病気のことは周りに当事者がいて初めて学ぶことが多いです。例えば、東京都の教育実習資料では、アレルギー疾患への対応、ADHDや不登校並びにいじめ問題等への目標は掲げられていますが、低血糖症状への対応については特に明記されていません[4]。 低血糖は最悪の場合、昏睡・死亡に至るものの、その症状や対処については十分な学習の機会が与えられていない可能性があります。
様々な緊急処置を社会にわかりやすく普及するのは医療者の役割でもあります。心停止に対するAED、アナフィラキシーに対するエピペンなどは啓発により随分世の中に浸透してきました。
「薬剤師も低血糖の対応について啓発に参加すれば良い」と思うかもしれません。しかし私は、実務実習で保険薬局の苦しい現状を目にしました。病院のカルテも見られずに診断名もわからないまま治療方針を把握しなければならず、頼れる情報源は、処方箋と患者の話しかありませんでした。それに、「薬を自宅まで届けてほしい」「残薬調整をしてほしい」など、とにかく担当する業務が多いのです。そのようななかでは啓発活動に十分に時間を割くことは難しいように感じました。
私はこの一連の考察から、実習生の目から見た実際の臨床現場を積極的に発信していこうと考えました。学生には、実習を通して医療現場にいながらも、世間一般の価値観とも近い、独自の強みがあるのかもしれません。
「人と医療の研究室Student Group」では、このように日々の事柄から研究員のフィードバックをもらいつつ考察を深め、寄稿などの機会を得ることができます。メンバーを募集中ですので、お気軽にご連絡ください。
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【参考文献】
(最終閲覧2020/9/17)
[1]薬がみえるvol.2, メディックメディア, 2015年
[2]重篤副作用疾患別対応マニュアル 低血糖, 厚生労働省, 2011年
https://www.mhlw.go.jp/topics/2006/11/dl/tp1122-1d17.pdf
[3]糖尿病の患者数・予備軍の数 国内の調査統計, 糖尿病ネットワーク, 2017年 https://dm-net.co.jp/calendar/chousa/population.php
[4]東京都教職課程カリキュラム3章教育実習,
東京都教育委員会, 2018年 https://www.kyoiku.metro.tokyo.lg.jp/staff/personnel/training/files/teacher-training-course_curriculum/c04.pdf
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