2020年2月6日
第回 生命(いのち)を見つめるフォト&エッセー 受賞作品
一般の部【日本医師会賞】
「拝啓、がん様」
安藤 かおり(66歳)鹿児島県
「子宮体
4年前、診察室で医師からそう告げられた時が、私とあなたが出会った瞬間でした。私の目の前は真っ暗になり、これから私はどうなってしまうのかという恐怖が、私の体を刺し貫きました。
大きな手術でした。
でも、そんな苦しい入退院を繰り返す間に、たくさんのがん友だちができました。同じ病気で苦しみを味わっているので、
そんな休憩室で、ある友だちがこんな物語を語ってくれました。彼女は、昼はかつお節工場で働き、夜は近くのお店でパートをしながら、女手ひとつで3人の子供さんを育ててきました。苦労して育てた子供も成人し、さあこれから......という、第二の人生を楽しもうと思っていた矢先に、がんと宣告され打ちひしがれていた時、同窓会で同じく伴侶を亡くし独り身で生きてきた初恋の人と再会したのです。
「焼け
と、彼との順調な交際のことや、治療が一段落したら一緒になろうと約束していることを、少女みたいにほほを赤くして話す彼女が本当に
「きっとその幸福感でがんも逃げていくよ、おめでとう。」
と、皆でうれし泣きをしながら、祝福しました。闘病のことを忘れさせるほどの情熱が湧いた彼女、今まで頑張ってきたご
また、
「自分の体は、骨まで転移していて、痛み止めもあまり効かないのよ......。」
と、笑いながら話してくれる友だちは、家に残してきたご主人に毎日電話をするのが日課。
「父ちゃん、明日は寒くなるそうだから、ちゃんと厚めのジャンパーを着て出かけるんだよ」
と、自分の闘病の苦しみは隠したまま、夫への気遣いの言葉を重ねる会話に、家族への思いやりの大切さ、自分だけが辛いんじゃない、本人の痛みを代わってやることもできない家族は、ただ気を使うだけしかできず、もっと辛いはずだと、自分の辛さだけで家族に八つ当たりしていた自分を反省しました。
私は多くのがん友だちと過ごす中で、治療困難であっても、自分の生き方を最後に決めるのは、自分なのだと学びました。自分が自分らしく生きるような選択をすれば、私も彼女たちのように、すがすがしい気持ちで生きられそうな気がするのです。
あの人たち、今どうしているかな? と気になります。でも、がん病棟では、誰一人として電話番号を交換しようとしません。きっと、皆わかっているのです。電話をしたとき、相手が必ずしも生きていてくれる保証がないことを。一期一会......それでいい。入院中の辛さを分かち合った友だち達、どうか元気に過ごしていてください。彼女たちと出会えたことに、私は心から感謝しています。
がん様。あなたとも一期一会で終わりたかったのに、4年目、また再会してしまいましたね。今度は肺と腎臓への転移。でもあなたとの出会いにも、悪いことばかりではなかったと、出会った頃の恨み憎むような思いは消えてなくなり、おかげさまで感謝できるようになりました。私の命は、友だちや家族をはじめ、多くの人に支えられて今ここに在ります。平穏に日常が送れるだけで幸せであるということや、たくさんの出会いに感謝しながら、いつまでかはわかりませんが、あなたと共に生きていきましょう。でも、もう少し歩みをゆっくりお願いしますね。
またお便りします。
かしこ