2020年2月6日
第3回 生命(いのち)を見つめるフォト&エッセー 受賞作品
一般の部【入選】
「命をみつめて」
成田 亜樹子(46歳)北海道
函館から愛知県に出て看護学生をしていた3年目の最後の春、臨床実習に出る前の健康診断で再検査の指示が出た。私だけ再検査、独り胸部外科外来の前で待っている時間が怖くてたまらなかった。もしかして......と色んなことを考えた。看護師を目指して勉強をしていたことで、知識や情報が余計に私を怖がらせた。
「ここ見て。看護学生さんなら分かるよね。
検査を重ねた結果、結核の診断となり瞬時に死の恐怖からは離れたが、ゴールの見えない隔離入院になった。「内服が効かなかったらどうしよう......」という不安。「実習に出られないということは卒業できない。看護師になれないんだ」と、病室のベッドで毎日泣いた。「なんで私が?」と、やり場の無い怒りと絶望感で一杯だった。入院とアパートでの療養を経て、学校の協力のもと、夏休み期間を利用して実習ができることになった。私は、絶対に看護師になって患者さんを全力で支えると改めて誓った。
臨床実習で私が担当させていただいたAさんは、癌の診断で両乳房切除手術した50代の女性でした。とにかく明るく元気で笑顔で、私はAさんから励まされて毎日の実習を過ごした。
ある日、検査に付き添い病室に戻る途中の階段で、Aさんは急に私の背中に顔をつけて声を出して泣き出したのだ。私は何も言わずにAさんが泣きたいだけ、泣いてくれたらいいと思いながら、どんなに
ある日、一枚の葉書に「妻は、急に状態が変わり、入院しておりましたが、逝ってしまいました。生前は
私は、自分が死ぬかもしれないという恐怖や、当たり前の生活ができない怖さを経験して、改めて命や健康の大切さを考えるようになったのです。一瞬で健康ではなくなる、死を覚悟しなければいけない現実は誰にでも訪れるものだから、元気に暮らせることが当たり前だと思ってはいけないということに気がついたのです。
今は看護職を離れ、未来を担う子ども
たくさんの患者様との出会いは私にとって支えであり、こうして命について深く考えることを教えてくれました。その出会いや経験を生かして、これからの時代を生きる子ども達に少しでも「命をみつめる時間」をもって欲しいと思います。たった一つの命、一度きりの人生を大切に考えられる子どもになって欲しいと思います。
私がAさんとの出会いを子ども達に話すことを、Aさんは許してくれていると思います。Aさんの一生懸命に生きた命が、私の中で生きているからです。