医師の男女共同参画
より良い未来を目指して
~瀧原 圭子先生 × 滝田 純子先生~(前編)
キャリアパスの大きな転機
滝田(以下、滝):今回は、私にとってロールモデルの一人である瀧原先生のこれまでのご経歴について伺い、それを元に、これからの女性医師の働き方について語り合いたいと思います。
先生は2012年より、大阪大学のキャンパスライフ健康支援・相談センター(以下、センター)のセンター長を5年間勤められ、現在もそちらで働いていらっしゃいますが、もともと循環器内科講座に所属されていた先生が、学生や教職員の健康管理に従事されるようになった経緯を聞かせてください。
瀧原 圭子先生
瀧原(以下、瀧):私は昨年3月に定年退職し、今はセンターの特任教授という立場です。定年までの37年間は大阪大学に在籍し、最初の20年間は循環器内科医として心臓を専門としていました。しかし17年前に突然、保健センター(当時)のポストのオファーを受けたのです。
保健センターに行くとなると、予防医学、公衆衛生学的な観点での総合内科の勉強が必須のため、自分にできるのかという不安がありました。また、それまで20年に渡って取り組んできた専門から離れることに非常に寂しさを覚えました。とはいえ、来るものは拒まずというのが私のモットーでもありましたし、循環器内科でのキャリアを具体的に描いていたわけでもありませんでした。これも一つのご縁だと思い、オファーをお引き受けすることにしたのです。
滝:センターのお仕事の内容はどのようなものですか?
瀧:大阪大学に在籍する約2万5000名の学生の健康診断や健康管理をしています。新型コロナウイルス感染症のワクチン接種もそうですが、学生が実習に行くための麻疹・風疹のワクチン接種も大切な仕事です。そして、約8000名の教職員に対しては、センターのスタッフ全員が産業医という立場で健康管理をしています。
センターは全学組織であるため、センター長だった頃は大学の執行部などと直接交渉したり、また総長補佐や副学長を経験し、大学運営にも関わりました。組織全体を俯瞰して様々な決定を下すという、新しい視点を獲得する機会にもなりました。
医師の男女共同参画
より良い未来を目指して
~瀧原 圭子先生 × 滝田 純子先生~(後編)
女性がキャリアを形成するためには
滝田 純子先生
滝: 先生のように女性で管理職を経験されている医師は、日本では今なお少ない印象です。その現状を変えていくためには、何が重要だとお考えですか?
瀧:女性医師がキャリアを形成するためには、まず常勤で働き続け、責任のある仕事をしていくことが何よりも大事だと思います。そのためには、人事の裁量権を持つ管理職の意識改革が鍵となるのではないでしょうか。子育てなどのために、たとえ週に3日くらいしか出勤できなくなっても、上の立場の方が配慮して常勤という立場で続けられるようにしていただきたいです。
滝:男性のリーダーが多かった従来の体制では、どうしても自分のよく知っている男性の集団から後継者を選んでしまう傾向もあったように感じますが、今後、性別にかかわらずリーダーシップを発揮できる人材を適切に登用できる土壌をつくるためには、どのような対策が考えられますか?
瀧:やはり、意識的に女性を登用することが大事でしょうね。もちろん個人の向き不向きはありますが、それを見極めるためにも、なるべく女性に早い段階からリーダーの経験をしてもらう必要があると考えます。そのため、私は女性の先生にできるだけ役職を任せるようにしています。
滝:旧来から日本では、家事育児などは女性が行うものだという性別役割分担意識が強く、また職業と家庭のどちらか一方を選ばなければならないという価値観が長く続いてきました。そのため、今も女性がキャリアを中断せざるを得ない状況が少なからず生じていると思います。今までのご経験から、このような状況を打破するヒントをいただけますか?
瀧:私は1988年から2年間カナダに留学していましたが、当時から研究員が子どもを職場に連れてくることが普通にあり、職場でも互いの家族のことを認識し合っているというのが印象的でした。日本も一人ひとりの家庭の事情を職場で尊重できるようになると現状が変わってくるかもしれません。
滝:私はその点、新型コロナウイルス感染症の流行により、会議や学会、研修会などへのオンライン参加が増えたことが、期せずして大きな変化をもたらすのではないかと期待しています。たとえば、会議中に子どもが足元にいたりする光景を性別や年齢問わず自然に見せられるようにしていったら、次第に価値観が変わっていくのではないでしょうか。
瀧:コロナ禍で広まった取り組みが、結果的に医師の働き方改革を前進させると良いですね。
日本の医師の未来
滝:医学教育の現場においても、今後様々な変化が求められていくのではないかと思います。今の若手を指導することにはどのような難しさがありますか?
瀧:今の学生や若手医師は、昔に比べて大人しくナイーブなように感じます。その一方で、50代前後の管理職などは、自分がかつて受けてきたような指導をすればハラスメントにつながる恐れがあるため、接し方がわからず戸惑っている印象です。そういった状況を改善するため、今後は指導者側も学生も、コミュニケーション能力を伸ばす必要があるのではないでしょうか。
滝:ディスカッションなど、双方向性のあるコミュニケーション能力を培う教育手法をより取り入れていく必要があるかもしれませんね。
瀧:急激な意識変容により、世代間のコミュニケーションはますます難しくなっていますが、今の若い世代は性差というものをあまり強く意識していないようで、良い変化が起きていると思います。また男子学生であっても育児休業に抵抗を持たない人も多い印象です。そういったしなやかさが現状を変えていってくれることを期待したいですね。
瀧原 圭子先生
大阪大学キャンパスライフ健康支援センター
滝田 純子先生
日本医師会男女共同参画委員会委員・栃木県医師会常任理事
※取材:2022年2月
※取材対象者の所属は取材時のものです。
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