XX年目のカルテ

チーム作りという自分の強みを活かし最高の医局を目指す
【大学教授】大塚 篤司医師
(近畿大学医学部皮膚科学教室 主任教授)

自分の強みを最大限に活かす

――先生は若い頃から教授を目指されていたそうですね。

大塚(以下、大):僕が医師になったのはスーパーローテートが始まる前年です。直接入局する以外の選択肢がほぼなく、医師の将来的な進路は「大学に残る」「民間病院に出る」「開業する」の三つという時代でした。僕は学生時代に基礎研究の面白さに目覚め、大学に残ろうと考えたのですが、「どうせなら山のてっぺんまで登りたい」という野心もあり、教授を目指すようになりました。卒後すぐ、研修同期に「40歳までに教授になる」と宣言していた記憶がありますね。若くて世間知らずだったこともあり、少ない選択肢の中でモチベーションを高く維持するために、一番わかりやすい目標だったのかもしれません。

ただ、教授という肩書に固執していたわけではないと思います。周囲と比べて突出した才能がない自分が世の中に役立つ大きなことを成し遂げるには、チームで取り組むことが必須だと考え、チームで仕事をする足がかりの一つとして教授という立場を捉えていたのです。「教授になる」と一応こだわってみるものの、そのこだわりはいつ捨ててもいい、という感覚でした。

――突出した才能がないとのことですが、40代の若さで教授に就任されています。

:昔から、真っ向勝負をするよりは自分の強みを活かして戦略を立てていくタイプなので、それが功を奏したのかもしれません。特に京都大学入局後は、天才肌の人たちに囲まれる環境下で生き残るために自分の強みをどう活かすか、と常に考えながら仕事をしていました。

――その強みとはどのようなものですか?

:自分を客観視することは上手くできる方だと思います。また、相手の人となりを把握し、チームで協働する際に活かしていくことも得意なのではないかと感じます。

若い人たちにも、自分の強みは何で、それをどう仕事に活かすか常に考え続けることをお勧めします。人間、苦手なことは簡単に見つかり、ついそれに気を取られがちですが、強みを見つけるのは案外難しいものです。人と同じことをしていて、苦もなくできると感じることがあれば、それが自分の強みですから、早めに自分の強みを把握し、活かし方を見つけてみてください。常に考え続けるといえば、「良い医師とは何か」についても考え続けてほしいです。良い医師の定義は時代によって変わるので、良い医師になる一番の近道は、良い医師になろうと思い、良い医師とは何かを考え続けることだと思うのです。

チームマネジメントは金魚鉢

――チームで取り組む重要性を意識するようになったきっかけはありますか?

:僕は元来、どの仕事も一人で完遂しようというタイプではないのです。他の人に甘えているともいえるかもしれませんね。研究・臨床はもちろん、書籍の執筆なども「自分一人でやっている」という意識はなく、「編集者さんが後で見てくれる」といった思いで臨んでいます。

ただ、大学院時代に一度だけ、全てを抱え込んで行き詰まったことがありました。どうしても実験がうまくいかず悩んでいた時、「それは誰かに頼んだら?」と助言を受けたことで眼の前が開けたのです。誰かに頼むことは得意だったはずなのに、研究となると一人で抱え込んでいたことに気付かされ、チームの重要性をより一層意識するようになったのだと思います。

――チームでの仕事のときはどのようなことを意識されていますか?

:目標を決めつけすぎず、柔軟に周囲に委ね、チームの中の化学反応のようなものを楽しむことでしょうか。例えば基礎研究のときは、いくら仮説を立てたところでそれが裏切られるのは当たり前で、人智が及ばないような事態がよく起こるわけです。チームで仕事をするときも同じで、自分の想定外の方向に転がっていき、それが面白ければそれでいいと思っています。リーダーとして大まかな目標と方向性を示して引っ張ることはしますが、自分の考えを絶対的な正解だとは思っていないのです。

チームマネジメントは金魚鉢のようなものだと感じます。金魚をちゃんと育てようと思ったら、金魚に直接手を加えるのではなく、鉢の大きさや水質、底の砂利や餌などの環境を整えて、金魚の健康を阻害するものを取り除くことが大切ですよね。チームも同じで、良いことをしようとするより、悪い要素を早めに探知して取り除く方が重要だと思っています。「こんな環境を作ったら、人はどう成長するのかな?」と考えながら整えていくのは楽しいですね。

「面白いもの」を皆で見に行きたい

医局メンバーが開いてくれた誕生日パーティー。

――今後の目標を教えてください。

:正直なところ、教授就任後は少し燃え尽きていました。教授になるために様々な業績を積み上げてきた面もあり、また「ベストセラーの本を書く」「影響を受けた憧れの人に会う」などの幼い頃からの夢も、幸運なことに昨年までに全て叶ってしまったため、何をしたら良いのかわからなくなったのです。思えばこれまで、目標にたどり着くことを生き甲斐にするスタンプラリーのような人生で、そこに到達することの意味をあまり深く考えてこなかったのかもしれません。

今は漠然と、「面白いものを皆で見に行きたい」「『最高の医局』を作りたい」と考えています。近頃は医局を敬遠する若手も多いと思いますが、医局は優秀な人材が多く集まる集団なので、上手に活用すればかなり面白いことができると思うのです。僕の顔色を見て仕事をすることがないよう心理的安全性を確保したり、残業を少なくしたりと、過ごしやすい環境を作ることには気を配っています。

――先生は、医局がどのような状態になっていれば「面白い」と感じますか?

:あえて言語化するならば、医局の中で複数の小さなチームが動き、各々が何かを成し遂げ、近畿大学皮膚科として世の中にどんどん発信していく…という感じでしょうか。医療プラスアルファで、ベンチャー企業のように何か独創的な面白いことをしている集団になり、その中から世の中を動かすものが生まれたらと思います。「近大マグロ」のように「近大皮膚科の〇〇」みたいなものができれば嬉しいですね。

大塚 篤司

信州大学卒、京都大学大学院修了。京都大学医学部特定准教授等を経て2021年より現職。『ほぼ日刊イトイ新聞』を愛読し、糸井重里氏に大きな影響を受ける。自身の著作や新聞・雑誌への寄稿などを通じて、アトピーに関する正しい情報や医師・患者関係を橋渡しする情報の発信を積極的に行っている。

※取材:2022年10月
※取材対象者の所属は取材時のものです。

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