保健所が担う様々な仕事 STUDY4

※この記事は、現役の医学生に各テーマについて書いていただいたレポートをもとに、編集部がリライト・再構成を行ったものです。

対人保健分野医学生レポート:旭川市保健所における「こころの健康」関する取り組み 

私たちは、旭川市保健所の健康推進課を取材させていただきました。健康推進課は健康推進係・保健予防係・こころの健康係の三つの係で構成されており、今回、こころの健康係・村岡弘江係長が快く話に応じてくださいました。

こころの健康係

この係は元々、「精神保健係」という名前で業務を行っていましたが、市民の方が親しみを持ち相談しやすいようにと、数年前に「こころの健康係」と改称しました。保健師5名、事務職員4名が所属しています。

こころの健康係の業務内容は、保健師と事務職員で担当が分かれています。保健師の担当業務は、大きく四つあり、相談業務・出前講座・自殺防止対策・家庭訪問です。事務職員が担当するものとしては、精神科に入院する患者への医療費助成業務などが挙げられます。旭川市では入院患者へ入院医療費の助成(月額当たり上限1万円)を行っています。その他、旭川いのちの電話や旭川精神衛生協会の運営も事務職員の仕事です。

相談業務

保健師のメイン業務である相談業務は、相談を通して市民の方々のこころの悩みに対応します。村岡係長によると、「カウンセリングと相談は異なり、カウンセリングは治療法の一つであるのに対し、相談は話を聞き提案にとどまるもの。また、相談者の想いや考えを支持するもの」ということだそうです。

現在、相談に来る人(電話やメールも含む)の内訳は、病気(統合失調症・双極性障害・神経症・うつ病)の診断がついている方が60%を超え、未診断の方は17.6%となっています。相談内容は、日常生活の悩みや漠然とした不安など一般的なものから、通院や病気の進行度に関してなど多岐にわたっています。旭川市では、現在チャットやSNSアプリでの相談は受け付けていないそうです。その理由を聞くと、「言葉を文字にしてしまうと、伝えたいことが間違ったニュアンスで捉えられてしまう可能性があるので、対面や電話での相談を大切にしている」とのことでした。

また、相談への対応も様々です。村岡係長は、「各人の悩みや緊急度に応じて保健所としての対応は変化させる」と語ります。話を聞くだけで終わることもあれば、病院受診の提案をすることもあります。また、自傷・他害の恐れがあると判断される場合は、病院・警察と連携を図ることもあります。相談内容の「緊急度の見極め」が、保健師の役割で重要な点だといえるでしょう。

相談業務に加えて、措置入院をされていた方の退院後のフォローも保健所の仕事です。患者さんに対して、主治医の処方通りの服薬を守っているか、訪問看護師さんを受け入れているかなどの質問を、電話や訪問で丁寧に行います。

自殺防止対策

旭川市保健所の「こころの健康係」で力を入れていることの一つに、自殺防止対策があります。保健所では国と同様に、「自殺は個人の問題でなく社会的な問題である」と捉えており、複数の取り組みを行っています。

例えば、保健所が中心となって「旭川市自殺対策ネットワーク会議」を開催しています。市内の各関係機関・団体で問題意識や情報を共有することで、旭川市の自殺対策の改善を図っています。また、学生などの若者を対象として、SOSの発信の仕方などを伝える研修会といった啓発活動も行っています。「旭川いのちの電話」の電話相談員の養成事業への補助や、「旭川自死遺族わかちあいの会」の活動支援も行っています。

「旭川自死遺族わかちあいの会」は、大切な人を自死で亡くされた遺族の集いです。抱える思いを吐露し、互いの気持ちに寄り添うことで、自分の気持ちを整理し、これから生きる新たな自分を見出していくための集いです。

他にも、新しい試みとして、令和2年度から「ゲートキーパー養成研修会」を開催しています。「命の門番」を意味する「ゲートキーパー」とは、周辺で悩みを抱えている人に気付き、声をかけ、話を聴いて、自死につながる前に必要な支援につなげ、見守る人のことを指します。自殺防止対策では、悩んでいる人に寄り添い、関わりを通して「孤立・孤独」を防ぎ、支援することが重要となります。この研修会では、ゲートキーパーを養成し、支援の輪を広げることを目的としています。現在、コロナ禍での研修会の開催は限定的な規模となっていますが、村岡係長は「コロナが収まれば、対面でのグループワークを多く取り入れた研修内容としていきたい。また、今は限られた関係者向けの開催であるが、実績を積み一定の評価をした後、市民向けにも開催してゲートキーパーを増やし、周りにいる自殺を考えるほどの悩みをもつ方々の身近な存在となってほしい」と意気込んでいます。

 

記事制作協力

 

 

旭川医科大学
医学部医学科4年
上野 裕生

 

 

 

旭川医科大学
医学部医学科2年
川口 菜々子

 

 

 

旭川医科大学
医学部医学科2年
松田 奈々

 

 

 

旭川医科大学
医学部医学科2年
眞野 竣

 

 

【取材協力者】

旭川市保健所健康推進課 こころの健康係 村岡 弘江係長

 

 

No.37