保健所(行政機関)で働く医師の
キャリアとやりがい(前編)

長崎県県北保健所長・対馬保健所長の藤田利枝先生に、保健所や行政の世界で医師として働くことの魅力についてお話を伺いました。

保健所で働きはじめたきっかけ

――藤田先生はどうして保健所の仕事をされるようになったのですか?

藤田(以下、藤):私はもともと消化器外科医でした。臨床に携わって10年が経った頃、「このまま外科医をし続けるのもいいけれど、少し違うことをやってみたい」と思うようになりました。何をしようかと色々と模索していた頃、同じ大学出身の先輩医師で、県庁で働いている方に出会いました。その方から、どのような仕事なのか詳しく話を聴いてみるなかで、行政職に魅力を感じるようになったのです。そこで、「自分には向いているかどうかわからないけれど、向いていないとわかったら、また臨床に戻ればいい」と、初めは軽い気持ちで行政の世界に入ってみました。

入職直後は、比較的規模の大きい保健所で働きました。医師は所長と私の2名という体制で、私は保健師さんたちと同じように、地域に出向いて様々な保健活動に携わりました。その後、長崎県庁で4年間勤務しました。その4年間で、2009年の新型インフルエンザの流行や東日本大震災などを目にすることとなり、行政機関で働く医師の役割の重要性を改めて強く認識しました。「このまましばらく行政の世界で頑張ってみよう」と思い、今に至っています。

地域の問題をすくい上げ、企画に落とし込む

――保健所で働くことのやりがいや魅力について教えてください。

:保健所は、地域の人を支援するための組織です。困っている人がいたり、住民の方が課題だと感じていることがあったら、見つけ出して改善していける点が、非常に魅力的ですね。「やりたい」「解決したい」と思ったことを、自分たちの手で実現できるのです。行政の仕事というと、毎年同じことばかりしているというイメージを持つ人もいるかもしれませんが、実は非常に能動性・積極性が求められる仕事なのです。

臨床医として働く医師の中にも、受け持ちの患者さんを見ていて、「もっとこういう制度があればいいのに」「地域でこういったことをしてくれる人がいたら」という意見を持っている人は多くいます。私はそうした意見を聞くと、「自分の手でやればいいんじゃない? 行政に来れば自分でできるよ」と声をかけています。「それをするのは大変なのでは?」と言われることはありますが、「臨床の世界にいるから、手段がないように感じるのでしょう? 行政だと、熱意を持って、少し頑張って企画を立てて、予算と人をつけてもらえば、実現できるんだよ」と返事をしています。このように、周囲の人や、かつての同級生や先輩後輩などを積極的に誘ってきた結果、これまでに4人が長崎県に就職してくれました。また、家庭の都合などで他の都道府県に就職した人も何人かいます。時間をかけて、行政の仕事の魅力をしっかり伝えられれば、皆理解してくれて、興味を持ってくれるのだなあと、手応えを感じています。

――先生ご自身は、これまでどのようなことを企画・実現してこられたのですか?

:脳卒中の方が急性期病院を経て、回復期病院に転院した後、地域に帰っていくための支援体制の整備などを行ってきました。地域全体で、市町村ごとに差が生まれないような支援体制作りを行いました。また、慢性腎臓病が判明した患者さんが、透析療法を必要とする状態になることを予防するために、かかりつけ医や専門医などが役割分担をする体制を作ったりもしました。

県庁で働いていた頃には、県全体のがんの治療体制の整備なども行いました。がんの急性期治療に関する医療提供体制作りのほか、再発や緩和ケアが必要になった場合、どの医療機関がどのような役割を持つのか、という計画も作成しました。今でも長崎県では、この時に作った医療提供体制のもとでがん治療が行われています。

――先ほど、「困っている人や、住民が感じている課題を見つけ出す」とおっしゃいましたが、どのように見つけるのですか?

:保健所にいると、難病の患者さんの支援や、感染症にかかった患者さんへの対応など、患者さんにダイレクトにお会いする機会も多いです。その際にお話を伺うことはやはり重要です。

また、市町村で定期的に行われている事業の報告が必ず上がってくるので、それを見比べることで見えてくるものもあります。他の市町村と比べて、あるいは全国比で「この部分が弱いなあ」と思う部分を見つけ出すのです。

会議の場でも、情報は集まりやすいです。私たちが市町村の会議に出席することもありますし、私たち保健所が開催する会議にも、様々な立場の方が出席してくださいます。気になる意見などが出たら、会議の後にもっと深くお話を伺っています。また、他の方にも意見を伺って、それが真に大きな課題なのかどうかを調べて吟味する、ということも行っています。

――様々なところから情報が集まってくるのですね。

:はい。むしろ、そうして集まってくる情報の実態を、各分野の担当者と共に探って確かめるという部分から、私たちの仕事が始まるとも言えるかもしれません。

ただ、県庁で働いていた頃は、現場から少し遠くなり、実際に何が起こっているのか詳細がわからず、持っているイメージだけで話をしている部分もありました。そこで現在は、県庁と保健所で月に1回定期的な会議を開催し、地域からの意見を聞いてもらう体制に変えてもらっています。現在はコロナ禍の影響で、多くの地域でテレビ会議が当たり前になってきていると思いますが、長崎県は離島が多いこともあり、2013年頃からすべての保健所でテレビ会議システムを構築しています。

県庁時代には臨床医の先生方から、「こういう部分をもっとどうにかしてよ」というお話が舞い込んでくることもありました。私の職掌ではない分野であっても、他の課の人に話を持っていき、「どう企画を立てたらいいかわからなければ、この臨床医の先生が相談にのってくれるし、企画書も書いてくれるはずだから」とお膳立てをして、進めてもらうということもしましたね。