FACE to FACE
田谷 元 × 原 明広
原:僕にとって田谷さんは「理想的な医学生」です。スキー部の先輩で主将を務められ、公衆衛生に関わるサークルやゼミで活動され、4年生からは研究室にも所属し、新型コロナウイルス感染症の流行後はクラスター対策班の活動もされています。
多岐にわたる活動のなかで田谷さんが大切にしてきたこと、気付いたことは何ですか?
田谷(以下、田):3年生まではとにかく様々なことに挑戦するよう心がけました。他大学のゼミに参加したり、医学部のビジネスコンテストに参加したりといった体験をするなかで、自分は何が得意で何ができるのかが、少しずつわかるようになってきました。
4年生からは選択と集中を意識して、研究に専念しています。公衆衛生をテーマに選んだのは、親が開業医で、もともと地域医療に興味があったからです。公衆衛生は社会的要因を扱ったり、医療機関の外に目を向けることが多いため、将来地域で何ができるかを考えるにあたっても、学びがいがあると感じました。
原:様々な活動をすることに、不安はありませんでしたか?
田:いつからか自分は一つのことに集中するのは苦手だと気付きました。それもあって、一つのことに集中してきた人には敵わないという思いがずっとあります。ただ、並行していくつかのことをやってみると、対比で新しい視点を得たり、組み合わせて新しいことができたりします。大事な問題は分野の狭間に落ちていることも少なくないので、そういうところで自分なりの価値が出せるのではないかとも思っています。
原:大学の勉強との両立は大変ではありませんでしたか?
田:慶應義塾大学には学生同士が協力して試験勉強の資料などを作る伝統があるので、それほど大変さは感じませんでした。スキー部の練習が夏の間は少ないことも、様々な活動に参加できた一因だと思います。もともとスキー部には多様性を尊重する文化があるので、部活動以外の多くのことを先輩から教えてもらいました。先輩たちの姿から多くの選択肢を見て参考にできたし、自分もやりたいことができる、良い環境でした。
原:僕はまだ低学年ということもあって、何かに熱中したい気持ちはあるけれど、その何かが見つからなくて悩むことがよくあります。
田:悩むより、とりあえず何か一つ選んでやってみることが大事だと思います。一度選んだら戻りづらいなと思うなら、ひとまず学会や一回限りのイベントに顔を出してみるという方法もあります。コロナ禍でオンライン開催のイベントも増えていますから、飛び込んでみるには良い機会だと思います。大切なのは知識と選択肢を増やすことです。挑戦してみないと見えない景色もありますよ。
原:周囲の友人の中には、CBTや国試の勉強を先取りしようとしている友人もいます。
田:早いうちから試験の勉強をするのは、僕はお勧めしません。誰もが通る道ですが、その勉強は試験に受かるためのものだからです。大学の本科がゲームの「表クエスト」だとしたら、大学のカリキュラムにはない「裏クエスト」も学費に含まれると思ったほうがいい。例えば研究室の先生に話を聞いたり、早いうちから臨床現場に出入りしたりできるのは医学生の特権ですから、それを利用しない手はないと思いますよ。学外活動だけでなく、学内にも「裏クエスト」がたくさんあることを、ぜひ知っておいてほしいですね。
田谷 元(慶應義塾大学6年)
1997年東京都生まれ。学習院高等科卒。大学在学中はスキー部に所属。その他、衛生学公衆衛生学教室での研究活動や学内サークル活動、学内外ゼミ活動などを行う。研究テーマはメンタルヘルスなど。家庭医療学・公衆衛生学・行動科学に興味あり。猫が好きだけど猫アレルギー。趣味は読書とTwitter。
原 明広(慶應義塾大学2年)
田谷さんは物事を多角的に考えている方だと思っていましたが、今回のインタビューでより一層それを感じました。医学生として、机上の医学だけでなく、AIや公衆衛生など、実践的な活動に自ら身を投じていて、とても良い刺激になりました。「実際に活動をしてみて、自分には向かないと気付くのも大事なことである」という考え方を僕も継いで、多方面に挑戦し続ける学生でありたいと感じました。
※医学生の学年は取材当時のものです。
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