第1講 人は生来怠け者?働き者?
メンバーのやる気を高めるには
先生:皆さんは、専門医を取得する頃には、一つのチームを率いる立場になっていると思います。より良いチームを作るためには、メンバーの「目標を達成したい」というモチベーションを高めて、互いに協力してもらう必要があるでしょう。
モチベーションの高め方には、いくつかのアプローチがあります。例えば「人は本来、仕事が嫌いで、強制や命令がないと働かない存在だ」と考えてチームを管理する場合、どうしますか?
阿:メンバーに「これをやりなさい」と命令して、強制すると思います。
先生:そうですね。そして、達成できたら報酬を、できなかったら罰則をというように、アメとムチで管理して、より良い結果を出させようとするでしょう。
もう一つの考え方は、「人は本来仕事が好きで、自ら進んで仕事をし、責任を取ろうとする」というものです。この考えに基づくと、メンバーに魅力的な目標を設定したり、ある程度の責任や権限を与えて、積極的にチームのために動いてもらうことになります。皆さんは、仕事をするうえで、どちらのやり方がより良いと思いますか?
近:効率がいいのは、一つ目の考え方だと思います。皆が好き勝手に動くと、協力しにくいと思うからです。それに、チーム全員がやる気に溢れているわけではなく、やる気のない人もいると思うので、権限を与えて自主的に仕事をさせようとすると、怠ける人も出てきそうです。リーダーが責任を持って皆の仕事振りを管理し、頑張った人にはしっかりと報酬を支払うべきでしょう。そしてできなかった人には、罰とはいかないまでも、それなりに待遇の差を付けていかないと、不公平だと思います。
板:部活のチームの場合、皆がやる気を持って集まっているので、二つ目のやり方でうまくいくことが多いと思います。でも、仕事の場合は…。もちろん、仕事が大好きで、やりがいを持って働いている人もいると思います。一方で、お金を稼ぐために働いている人もいるでしょう。高い業績を挙げた人がきちんと評価されて、報酬に反映される仕組みがあれば、お金のために働いている人も、自主的に努力して、より良い結果を出そうと考えるのではないでしょうか。
堂:でも前に、「チームは個人の総和を超える成果をもたらすもの」という話がありました。一つ目のやり方だと、リーダーが考えた仕事の割り振りに従って、それが確実にできさえすればいいということになるので、リーダーの考え以上の成果は出てこないのではないでしょうか。適正な報酬を支払うことも大事ですが、責任とやりがいを持って働いてもらったほうが、やっぱりいい結果は出ると思いますし、「どうすればやる気を持ってもらえるのか」を考えるのも、リーダーの仕事だと思います。
先生:様々な意見が出てきましたね。実は、先ほど挙げたモチベーションの二つの高め方は、経営学の理論に基づいています。
もちろん、これらのアプローチはかなり単純化されたものですし、どちらが正しいというわけではありません。ただ、こうした理論が出てきた背景には、「人間をどのような存在だと捉えるか」についての大きな変遷があります。少し込み入った話にはなりますが、次回は経営学の始まりと、人間観の変遷の歴史について紹介していきます。
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