臨床検査技師(医師会の臨床検査センター)(前編)
臨床検査センターとは
――医師会の臨床検査センターとはどのようなものですか?
丸岡(以下、丸):当施設は、医師会が経営している、医師会会員の診療を支援するための共同利用施設です。主に、西宮市医師会診療所内で採取された検体と、医師会会員の開業医から送られた検体の臨床検査を行っています。また、併設の健診施設を訪れた人の心電図や超音波の検査等も行います。
――具体的な検査業務について教えてください。
丸:肝臓・腎臓などの機能や糖尿病検査などの生化学的検査、貧血の有無や血液疾患などを検査する血液学的検査など、様々な部門に分かれて検査を行っています。他にも、病気の診断などを行う病理検査、感染症の有無などを判定する微生物検査なども行っています。さらに現在は新型コロナウイルス感染症検査のため、遺伝子検査室も整備され、感染拡大の防止に尽力しているところです。
検査数は一日平均700件で、月に約260医療機関の検査を行っています。
――1日のお仕事の流れは、どのようになっていますか?
木村(以下、木):午前中は主に、機械の立ち上げや精度管理をしていますが、緊急の検査があれば迅速に行います。昼頃に市内の各医療機関から回収された検体が到着しますので、夕方までに検査を済ませ、緊急検査は報告します。細胞診検査や微生物検査などは時間がかかるため、数日ほど時間を要します。
医師会共同利用施設として
――医師会の臨床検査センターは、病院内にある検査室とはどう違うのでしょうか?
木:病院内の検査室だと、検査技師も患者さんのカルテを参照しながら検査することができますが、私たちはそういった情報を得ることはできません。ですが、普段から様々な医療機関からの検体を見ているため、その知見をもとに、身体所見ではわからなかったことをデータから発見するということもあります。
丸:また、医師会共同利用施設では、特定健診やがん検診などの行政健診(検診)も行っているので、地域の医師たちと連携して地域住民の健康を守っているという特色があります。
――西宮市医師会診療所臨床検査部として、独自に行っている取り組みなどはありますか?
木:西宮市医師会では子どもの心臓検診・腎臓検診に特に力を入れています。この検査は、子どもたちに直接会うことができ、またデータを見ながら付き添いの保護者とお話しすることもできるため、地域の方々をより近くに感じられる機会になっています。
丸:検査が済んで診断が下りると、子どものその後についての審議会が開かれます。兵庫医科大学の小児科の医師や、かかりつけ医、教育委員会、学校の先生や養護教諭などと一緒に、子ども一人ひとりの今後の生活形態に関する話し合いをします。このような形でチームとして取り組んでいる臨床検査センターは、全国でも少ないようです。
(左)現在は新型コロナウイルス感染症のPCR検査も行っています。
(右)医師が直接、検体を持参することもあります。
臨床検査技師(医師会の臨床検査センター)(後編)
チーム医療の一翼を担う
――検査結果を伝える際など、医師とはどのような形でコミュニケーションを取っているのでしょうか?
木:検査結果から重大な異変を感じたときは、なるべく早めに医師に連絡を入れるようにしています。医師の皆さんはそれを受けて、患者さんに大きな病院を紹介したり、こちらに追加の検査を依頼したりといった即時の対応をしてくれることも多いです。
――医師と直接、顔を合わせて会話をする機会はあるのでしょうか?
丸:最近は在宅療養の患者さんも増えていることから、集配者の回収だけではなく、医師が直接検体を持参することも増えています。また、同じ建物の中に医師会の事務所があるため、そこで顔を合わせることもあります。顔見知りになると、電話では言いにくいような注意事項なども直接言えるようになるのがありがたいですね。
中には、研修医を臨床検査部に見学に連れてくる医師もいます。その際は、検査機器の説明をしながら、医療機関から運ばれてくる検体について解説しているのですが、研修医の先生に「見学できてよかった」と言ってもらえると嬉しいですね。
木:また、年に一度、医師を対象に採血の仕方や検体の取り方についての勉強会を開いています。そのなかで、医師の皆さんに何か気付きを与えることができると、私たちもチーム医療の一翼を担っているという実感が湧いてきます。
とはいえ、直接顔を合わせたことがなく、検体のやり取りだけをしている医師もたくさんいます。こちらから電話で連絡する際、タイミングに悩みがちなのですが、気さくに応じてくださる方が多いので、助かっています。
――コロナ禍での検査部の状況はいかがですか?
丸:PCR検査は非常に増えました。そのため、医師とデータをやり取りする機会も増え、親密な情報交換もできるようになったと思います。以前より医師との距離が近くなったかもしれません。
それとは対照的に、一般の検体が少なくなりました。主に、小児科や耳鼻咽喉科は顕著に受診控えの影響を受けており、検査も少なくなっています。
木:これまで臨床検査技師は、看護師や薬剤師など他の職種に比べると目立たない存在でしたが、コロナ禍により多少は注目が集まるようになった気がしています。診断の下支えとして大きな役割を果たしていると考えると、身が引き締まる思いです。
――最後に医学生へのメッセージをお願いします。
木:医師の方には、こちらが気軽に話しかけられる雰囲気でいてもらえるとありがたいですね。また、気になることがあれば、遠慮せずに声をかけてほしいです。たとえば、検体を出す際は、急いで検査をした方がいいのかどうか、主に何について知りたいのかなど、具体的な情報を知らせてもらいたいです。そうすれば、検査結果に応じて、必要だと思われる検査の追加をこちらから提案することもできます。迅速に次の診療へ進むためにも、大事なことではないかと思っています。
丸:今は、チーム医療という考え方が広まっていますが、臨床検査技師もその一員として、診察や診断などの参考になる意見や提案も出せると思います。そのため、医師の方もぜひ臨床検査技師と深く関わってほしいと思います。
丸岡 康子さん
西宮市医師会診療所臨床検査部
臨床検査技師・技師長
木村 裕子さん
西宮市医師会診療所臨床検査部
臨床検査技師
※取材:2021年8月
※取材対象者の所属は取材時のものです。
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