
新型コロナウイルス感染症(以下、新型コロナ)の感染拡大期には、新型コロナ患者を受け入れる病床の不足が大きな社会課題となりました。入院できる病院が見つからない、自宅療養中の死亡例などがセンセーショナルに報道され、「新型コロナ対応をすると儲からないから、医療機関は病床を出し惜しみしている」といった、実情と乖離したコメントも散見されました。医学生の皆さんの中にも医療機関の病床の確保について関心を持った人は多いのではないでしょうか。
実は、入院を必要とする患者さんを医療機関がきちんと受け入れるという体制は、普段からの様々な仕組みや現場の調整の上に成り立っています。今回の特集では、二人の医学生が、先生と一緒に医療現場の様子を見て語り合う形で「病床」について考えていきます。
ベッドが空いているのに「満床」?
医学生A(以下、A):実は、新型コロナの第4波の時期に、親が新型コロナに感染しました。僕は大学の近くで一人暮らしをしているので家族とは離れていたのですが…。ちょうど入院が必要な患者さんが多い時期だったため、親はサチュレーションモニターをつけて自宅療養をすることになりました。重症にはならなかったものの、酸素飽和度が90%台前半になったと聞いた時は、かなり不安になりました。患者家族の立場になってみて、病院に入院して診てもらえる安心感が身にしみてわかりました。
医学生B(以下、B):私はちょうど感染拡大期に地域医療実習があり、地方部の小規模な病院に行きました。そこの先生は、新型コロナの患者さんだけではなく、通常診療の患者さんも大規模病院に入院しにくくなっているとおっしゃっていました。
日本は世界的に見ても病床数が多い方だと聞きました。それなのになぜ「入院した方がいいのに入院できない」という患者さんが出てしまうんでしょうか?
A:私たちが見ているこの場面でも、空いているベッドがあるのに、なぜ入院を止めてしまっているのでしょうか?
先生T(以下、T):良い質問ですね。まず、「病床が多い」と言っても、医療機関のベッドには常に空きがあるわけではなく、ほとんどは入院患者さんがすでに入っています。そして普段は、その患者さんが退院しても、次の日には手術や検査が予定されている患者さんが入ってくることになっています。このように、限られた病床で患者さんを最大限に受け入れるために、普段から効率良く病床を使っているのですから、「病床が○○床ある」といっても、すぐにその人数分新たな入院を受けられるわけではないんです。
B:普段から、病床には余裕があるわけではないんですね。
T:そうです。そして、コロナ禍では通常の患者さんに対応しながら、新型コロナの重症者はもちろん、中等症や重症化リスクの高い軽症・無症状の患者さんの入院も受ける必要がありました。さらに、厳重な感染対策が求められたことで、ますます病院に負荷がかかりました。その結果、どうしても入院が必要な患者さん以外には治療や手術を待っていただき、なんとか病床と医療従事者をやりくりして新型コロナに対応したというのが、現場の実情でしょう。



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- 医師への軌跡:塚田(哲翁) 弥生先生
- Information:Summer, 2022
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