どれだけの病床を確保すべきか
病床は地域にどれだけあればいい?
A:ここまで様々な話を聞いてきましたが、単に病床を増やせば医療の逼迫が解消されるわけではないとわかりました。
B:増床するには、専門性を持った医療従事者を確保する必要がありますし、空き病床をキープし続けると医療機関の経営が厳しくなるのですよね。結局、病床は地域にどれだけあるのが最適なのですか?
T:実はすでに、「この地域にどの機能の病床がどれだけあればいいか」の検討が始まっています。「地域医療構想」といい、団塊の世代が後期高齢者となる2025年を目安に、地域ごとに医療機能別の医療需要や必要病床数を推計し、病床数の最適化や連携を促すねらいがあります。
A:需給のバランスをとるのですね。その構想は、誰が推進するのでしょうか?
T:地域ごとに人口構成も医療資源の充実度も異なるため、二次医療圏*1を基本とした「構想区域」ごとに「地域医療構想調整会議」を設置し、病床機能報告*2のデータなども参考にしながら、住民・自治体・保険者*3・医療機関・地域医師会など、地域の関係者が協議します。
B:例えば病床が多すぎる場合に、民間病院に対して「この病床を減らす」「この病院は他の病院と統合する」などと強制的に決められるものなのでしょうか?
T:もちろん強制はできません。構想区域内の自院の位置づけを確認し、各医療機関の病床機能報告などのデータを参考に自院の目指すべき方向を検討し、自主的に協議のうえ病床数が収れんされていくのが望ましいでしょう。医療機関も、地域の需要を上回る病床を維持するのは経営的に負担が大きいので、適切なデータがあれば自発的に対処するはずです。
A:普段の需要予測に合わせて病床を減らすと、コロナ禍のように急に医療需要が高まったときに足りなくなりませんか?
T:そうですね。感染症対策は、今回のコロナ禍で浮上した大きな課題です。感染症患者を受け入れる候補の医療機関をあらかじめ決めておき、感染拡大時に活用しやすい病床や転用可能なスペースを確保しておくなど、平時と有事の医療提供体制を考えていくことが大切です*4。
*1 二次医療圏…その地域の入院治療等の医療提供体制を整備する単位となる区域のこと。地理的条件やそこに住む人の生活事情、交通事情などを考慮して設定される。いくつかの市区町村から構成されることが多い。
*2 病床機能報告…各医療機関が、自院の病床が担っている医療機能を病棟単位で選択して都道府県に報告する制度を病床機能報告制度という。地域医療構想への活用や、患者・住民・他の医療機関に、各医療機関が有する機能を明らかにすることを目的とする。一方で、地域医療構想で推計する必要病床数は、個々の病棟単位での患者の割合等を正確に反映したものではないことから、必ずしも、病床機能報告制度の病床数と一致する性質のものではない。
*3 保険者…健康保険事業を運営する主体のこと。被保険者から保険料の納付を受け、医療機関から請求された医療費の支払いを行ったり、被保険者の健康の保持増進を図る保健事業などを行っている。
*4 第8次医療計画から、都道府県は5疾病5事業に加え、新たに「新興感染症等に関する医療提供体制」を設けることとなっている。
地域医療構想を実現するために
B:策定された地域医療構想は、どのように実現していくのでしょうか?
T:地域医療構想の実現には、設定された病床機能と、実際に入院している患者さんの状態がおおむね合うことが重要です。どんなに精緻な予測をして病床機能を調整しても、急性期病床に回復期・療養期の患者さんが長く入院していたら、病床は足りなくなってしまいますよね
A:決めた機能に沿った形で、病床が使われる必要があるということですね。
T:そうです。患者さん相手のことなので完全に一致させるのは難しいでしょうが、医療者も住民も「病床はそれぞれ機能や役割が決められていて、それに応じた使い方をする必要がある」ことを認識し、貴重な医療資源を効率良く使っていく意識を持ってほしいですね。
A:自分はこれから入院の判断をする医師になるのに、病床のことは全く見えてなかったことを実感しました。
B:今後の実習でも、病床のことをもっと意識してみようと思いました。
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