医学生の交流ひろば

医学生匿名座談会
〜なぜ私たちは東京へ向かうのか〜

コロナ禍で、医学生同士が集まる機会が少なくなった昨今。日頃なかなか話すことができない本音を語り合うために、医学生が主体となってオンライン座談会を開きました。

東京に行ったら何をしたい?

出口(以下、出):医学生が卒業後、どのような勤務地を選び、キャリアを積んでいくかは様々です。医学生として、地域医療の重要性は様々な場面で実感することがあると思いますが、その一方で東京などの都市部に人が集まってしまうという事実もあります。今回はそういった現状について考えを深めるために、東京で働きたいと思っている人たちに集まって本音を語ってもらいました。

真野(以下、真):今回集まっていただいた皆さんは、出身地も現在通っている大学も東京ではないけれど、卒業後は東京、もしくは東京周辺で働くことを考えているとのことです。東京で働きたい動機や、今描いている将来のビジョンについて話を聴きたいと思います。

まず皆さんは卒業後、東京で具体的に何をしたいのですか?

医学生A(以下、A):私は東京で人脈作りをしたいと考えています。若手医師として研鑽する時期に、様々な人とのつながりを作っておくことは大切だと思うからです。

医学生B(以下、B):私は将来、臨床のみに携わるのではなく、医師としての専門性と他の専門性を組み合わせて活躍できるような医師になりたいと考えています。今は気になる取り組みをしている病院が東京にあり、そこで研修できればと思っています。

医学生C(以下、C):私は東京の中でも、葛飾区や江戸川区、荒川区などの下町で研修をしたいです。下町には様々な生活状況の方が住んでいるため、幅広い層の患者さんに対応できるようになるのではないかと考えています。

また、憧れの先生が東京にいるため、その先生の下で研修したいです。たとえ卒業後すぐにそれが叶わなかったとしても、関連する病院に勤務できれば、その先生の下で働いていた先輩医師と知り合えるかもしれないので、研修先はなるべく東京で探すつもりです。

医学生D(以下、D):私は卒業後、東京都内の病院で働くことが決まっています。形成外科のマイナーな領域を志望しているのですが、形成外科の大きな医局を持ち、症例数も多い大学病院は東京以外では少ないので、4年生くらいの頃から東京で研修をしたいと考えていました。

東京の魅力って何だろう?

真:皆さんの大学では、卒業後に東京周辺へ行く人はどれくらいいますか?

D:私は九州の大学ですが、3割ほどが卒業後の研修先として東京周辺の病院を選ぶ印象です。

C:近畿圏の大学生は近畿愛が強い人が多いイメージなので、わざわざ上京する人は少ない気がします。

A:地方の国立大学などは様々な場所から入学する人がいるため、東京周辺から来た人が卒業後再び地元に戻る、ということもあるのかもしれませんね。

出:東京に憧れる医学生が多いのは、どこに魅力を感じているからだと思いますか?

A:多くの人が集まっているということがやはり大きいと思います。著名な先生も多くいらっしゃるので、僕は東京に行ったら、地元に戻ったり地方に行ったりしても相談できる、メンターのような先生を見つけたいです。

B:東京には様々な人たちが集まるので、多様性のある土地という漠然としたイメージを抱いています。私は今まで東京で暮らしたことがないので、実際はどうなのか一度体験してみたいと思っています。

真:Dさんは東京や東京周辺で病院見学をして、様々な人が集まっていると感じましたか?

D:私の行った私立大学の附属病院の説明会では、研修医の多くが他の大学の出身者だと聞きました。そのため、私のような地方の国立大学出身者でも比較的過ごしやすいのではないかと感じました。

どこまで東京にこだわる?

出:一般的に東京や東京周辺の病院は症例数が多いと思われており、それを理由に東京を目指す地方の医学生も少なくない印象です。しかし、実はデータや過去のドクタラーゼの取材を見ると、東京周辺は症例数が多いものの病院も医師も多く、これに対し、地方では病院も医師も少ないので、医師一人当たりの症例数は地方のほうが多いのではないかとも考えられるのです。

真:そのため、地方で研修をすると患者さんに接する機会が多くなるけれど、都心の病院ではほとんど患者さんと接触できないという話もあります。その点を踏まえても、皆さんは東京にこだわりたいと考えますか?

C:私は内科系でもマイナーな領域を志望しているのですが、そもそも地方にはその診療科を設置している病院がないことも多いのです。そうなると多くの症例数を経験すること自体が難しくなるので、東京で働く方が良いのかなと思います。

A:僕は勉強に加え、これまで様々な課外活動に取り組んでおり、以前から東京にもよく行っていました。その経験から、自分が興味のある活動に関わっているのは東京の先生の方が多いという印象を抱いたので、やはり東京にこだわりたいです。

B:私が今、関心を持っている分野はホスピスと精神科なので、確かに地方のほうがより多く症例数を経験できそうです。ただ、関心のある病院があるというだけでなく、東京という土地で生活したいという願望があります。私は東京ではないですが、都会で生まれ育ちました。大学に入学し、地方で暮らすなかで、都会との生活の違いを実感するようになりました。

地方はどうしても車移動が中心になってしまいますが、都会だと公共交通機関が充実しているため、自由に動き回りやすいのだということを知りました。私は、電車の駅単位で個々の文化を持つ街が形成されていたり、劇場やジャズバーのような文化や芸術の発信地が身近にある土地が好きなので、医師として独り立ちをしたらそういったところで生活をしたいです。仕事や社会貢献をするにしても、私は自分が心地良いと感じる場所に生活の基盤を置いた方が力を発揮できるように感じるからです。

出:医師としてのキャリアだけでなく、自分の今後の人生を考えたときにどこに住みたいかも関わってきますよね。しかし、若手医師の頃は金銭的・時間的に、都心で一人暮らしをするとあまり余裕が持てないのではないかという懸念もあると思います。

B:私は東京での生活を経験してみるには、むしろ自分の時間を持つことが難しい研修医時代は不向きかもしれないと考えています。そのため、研修は東京以外の土地で行い、その後また別の機会に東京に住むということも視野に入れています。

D:家賃などを考えて郊外に住もうとしても、医師は多忙ですから、移動時間が長いと自分の時間を作りにくくなりますよね。私は都心から1時間離れてしまうような場所で暮らすということはちょっと考えにくいなと思い、住む場所を決めました。

A:僕はあくまで東京を人間や情報が集まる場として活用したいだけで、東京での生活そのものに対してはあまり憧れがありません。移動に時間を使うことには慣れているので、東京に1時間程度でアクセスできれば、住む土地はどこになっても良いと考えています。港町の雰囲気が好きなので、横浜に住めたら嬉しいです。

東京に行ったその後

出:Bさんは東京以外の場所での研修も視野に入れているとのことでしたが、東京で研修医として過ごすことを第一の目的として考えている皆さんは、その後はどこで生活をしたいと考えていますか?

C:私がもともと東京に行きたい一番の理由は、親元を離れたいということでした。都市部で研修した後で地元に戻るという人も多いと思いますが、私は地元に帰る可能性は低いですね。一族の多くが医師の家系のため、出身地の近くで病院を探そうとすると、どうしても親族の誰かと関わらなければいけませんし、これまでも周囲の人たちから「ああ、〇〇先生の親戚の?」と言われることがありました。そういったつながりのない場で頑張りたいので、東京でその後も働き続けたいです。

D:私は、いつかは地元に帰りたいと思っています。自分の専門の学習機会を得るには東京が最適なのですが、私の地元にはその専門科の有名なクリニックが少ないので、開業するならば地元に帰るという選択肢は十分あると考えています。

A:僕は経験を積み、人間関係を作ることができたら、あとはそれをどう活かすかだけだと思っているので、研修を終えた後で働く場所に強いこだわりはありません。志望の診療科は救急科なので、どのような地域でも働けると思います。「自分はここの医療に貢献したい」という思いを抱くことができれば、全く住んだことのない地方に行ってみるのもいいかなと考えています。将来は今よりさらにオンラインでのコミュニケーションが発達しているはずなので、人脈を作ることができていれば、どこに住んでいてもそれほど支障をきたすことがないのではないかと思っています。

真:東京という土地に対して、皆さんがそれぞれ異なるものを求めているということがよくわかりました。今回の座談会が、読者の皆さんの進路選びの参考にもなれば幸いです。

出口 貴祥

旭川医科大学3年

石川県出身。

「キャリアだけでなく人生にも関わる話ですよね」

真野 竣

旭川医科大学3年

兵庫県出身。

「東京に求めるものは本当に人それぞれだと実感しました」

医学生A

兵庫県出身。

関西の私立大学の4年生

「東京を人間や情報が集まる場として活用したいです」

医学生B

愛知県出身。

九州の国立大学の3年生

「東京での生活は一度体験してみたいです」

医学生C

大阪府出身。

関西の私立大学の5年生。

「憧れの先生が東京にいます」

医学生D

滋賀県出身。

九州の国立大学の6年生。

「東京で臨床研修をする予定です」

※取材:2022年3月
※取材者の所属は取材時のものです。

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